「松茸」は英語でも「matsutake mushroom」というらしいですよ。この他、「pine mushroom」とも言うようです。「pine」は「松」のことだから、意味するところはやっぱり「松茸」ですよね。
英語でも「マツタケ」というなんておもしろいですよねー。
とはいうものの、この松茸が海外でも松茸なのは、日本語の影響というより、日本以外ではあまり人気がある食材とは言えないことも影響しているみたいです…。
世界にも松茸はありますが…
日本の松茸は一般的に赤松などの根部について、地表に近い土中に育つのが特徴ですが、世界的に見ると広葉樹林の松茸なんていうのもあるようで、北半球の環太平洋~地中海沿岸や北欧にマツタケの発生があります。
けれど食文化にしている所は意外と少なく、朝鮮半島や中国の一部くらい。
しかも朝鮮半島はここ十数年前から食べるようになったということなので、松茸を珍重する日本人はかなり変わった食文化を持っていると言えるようです。
というのも、よその地域の人たちにとって、あの独特の香りには受け入れ難いものがあるようで、食材としてみなされていないことが原因です。
もし食べることになったとしても、オリーブオイルやチーズをたっぷり使って臭いを消そうとするのだとか。古事記に記録が残るくらい古くから松茸に親しんできた日本人にとっては、ちょっと信じられない食べ方です(汗)
ちなみに海外の場合、「松茸」といっても北米のものは学名も違っていて「Tricholoma magnivelare」(トリコローマ・マグニベレア)といいます。
アジア産(韓国、北朝鮮、中国、ブータンなど)は日本と同種の「Tricholoma matsutake」(トリコローマ・マツタケ)がとれますが、中国ではブナ科の樹林でとれる松茸が主力となっているようです。
北欧の松茸はDNAが日本のものと99%一致
学名が違うとやはり味や香りにも違いがあるようですが、海外産の中にはDNAが日本とほぼ同じで、同種といえる松茸があるようです。
1998年から輸入が始まっているスウェーデン産のものがそうです。
このことは1999年ウメオ大学のエリックダネル氏とニクラスベルギウス氏のレポートにより指摘され、2000年に岩手県産の松茸とDNAが99%一致していることが確認されました。
1%の違いって、具体的にどれくらいのものなのか素人にはよくわかりませんが(汗)生物学的には同種と言えるほどで、味、香りも全く同じと考えられるのだそうです。
ただ、これで困るのが学名の問題です。
というのも、同種の場合、学名も統一する必要があるからなんですね。
同一のものに別々の名前が付けられていた場合、国際植物学命名規約により最初に付けた名前が採用されることになっています。
スウェーデン産の松茸の学名は「Tricholoma nauseosum」(トリコローマ・ノーシオーサム)といって、命名されたのは1905年のこと。
日本の松茸の学名「Tricholoma matsutake」(トリコローマ・マツタケ)が命名されたのは1925年なので、本来なら先に命名された「T.nauseosum」になるはずなのですが、日本語で言うとこれは「靴下キノコ」という名前になってしまうのです。
つまり、履いた靴下みたいに臭いキノコという意味に(汗)
ヨーロッパの人はそれでもいいかもしれませんが、日本人はちょっとそれは… 嫌ですよね。
T.matsutakeは大人の対応で保存されることに
というわけで、原則、古い名前が優先される動植物の学名ですが、松茸の場合は大人の対応がとられたようです(笑)
拠り所となったのは「国際植物学命名記規約 第14条」。
これは、たとえ後に付けられた名前であっても、文献で多数の資料が書かれてきた実績があり、すでに広く用いられている場合、その名前を廃してしまうとかえって混乱して学問としても不利益が考えられるので、これを避けるために特例措置が用意されているというわけです。
T.matsutakeも広く使用されていることを理由に、T.matsutakeをそのまま保存するべきであるという提案がされ、2002年に菌類委員会に受理されました。
今でもT.matsutakeが学名として使われているのは、このおかげなんですね。
靴下の臭いにならなくて、ひとまずよかったよかった(笑)