どうして首を斬るの? 鬼滅の刃で鬼を滅するための解剖学

鬼の首

In the Blade of Demise, the demon’s neck is slashed to exterminate it, but there seems to be a reason why the neck is the demon’s weak point.
鬼滅の刃では、鬼の頸を斬って退治しますが、頸が急所となる理由があるようです。

(この記事は、第1巻、第2巻、第3巻、第4巻、第5巻、第6巻、第12巻、第14巻、第16巻、第17巻、第19巻のネタバレを含みます)
 

無惨様が太陽の克服にこだわったのはなぜなのか、その考察をする前に、鬼滅の刃に描かれる鬼はどんな生き物なのか、詳しく見ていこうと思います。

というのは、鬼といっても昔話に出てくる鬼とは少し違いますもんね。

古代日本に出てくる鬼は、姿が見えないもの、異形のもの(まつろわぬもの、渡来人など)として古事記にも記録されています。

中世では、もののけや疫病神と結びついたイメージが強くなり、時代が下ると仏教の影響で地獄の獄卒としてのイメージが広まりました。

鬼滅の刃における、鬼の生態

こうした伝説に出てくる鬼と違い、「鬼滅の刃」の鬼はこんな感じで描かれています。

 

・主食 人間
“飢餓状態”になっている鬼は、親でも兄弟でも殺して食べる(第1巻 1話)
怪我を治すために力を消費したり、鬼に変わる時に体力を消費するが、消費した体力などを回復するには、人の血肉を食らって回復する(第1巻 1話)

・眠らない
無惨様は「睡眠も不必要」ということなので、恐らく他の鬼も寝ないのでは?(ファンブック第二弾137頁)

・繁殖しない
鬼を増やせるのは無惨の血のみ(第2巻 11話)
上弦の鬼は、鬼にしたいものがいた場合、無惨に許可をとって、自分の血を変化させる(第17巻 145話)

・身体能力が高く、傷などもたちどころに治る
切り落とされた肉も繋がり、手足を新たに生やすことも可能(第1巻 4話)
体の形を変えたり、異能を持つ鬼もいる(第1巻 4話)
人を多く喰らった鬼ほど強くなる(第3巻 24話)

・死なない
太陽の光か、特別な刀で頚を切り落とさない限り殺せない(第1巻 4話)

 

生き物の定義で一般的なものは「自己を繁殖・増殖できるもの」というのがありますが、増殖できてもウイルスのように「生命」と言い難い存在もあるため、最近では「進化する能力を持っている」とか、「エネルギーを使って自分を管理している(代謝)」といった言い方をします、

 
参考 第1章:生物とは何か 生物の期限 ~細胞生命の起源~ | 気まぐれ生物学(無印)
 

鬼滅の鬼の場合、増殖できるのは無惨様の血だけだし、強くなると異能を持つようになるけれど、これは生物の種としての進化とは違います。

もとは人間(第5巻43話)なのですが、生き物としては少し変わった存在になるようです。

鬼滅の刃で見る、人食い鬼の滅し方

そして、鬼を退治するには、太陽の光か特別な刀で「鬼の頸を斬る」こととされています。(第1巻 4話)

一度だけ、義勇さんのセリフに「勿論、お前の妹の首も刎ねる」(第1巻 1話)と出てきますが、それ以降は鬼を退治する意味で「くび」のことを言うときは、「頚」のみです。

「角川 漢和中辞典」によると、「刎」は語源に「はらう」意味を持ち、漢字の意味も「刀で首を切る」ことを表していると説明されていて、時代劇でもよく出てくる言い回しです。

このときの炭治郎はまだ一般ピープルなので、「首」か「頸」かなんて、細かいことを言っても仕方ないということかもしれませんね(汗)

では、「鬼の頚」には、どんな意味があるのでしょう?

「首」は頭部の形をかたどる象形文字で、以下のような字義があります。かなり広い意味を持つ漢字みたいですよ。

 

1. くび。かしら。こうべ。あたま。
2. はじめ。第一。「首席」「首位」。
3. かみ(上)。上位。
4. さき(先)。まえ。
5. もとづく。本とする。
6. おさ(をさ)。かしら。
7. かなめ。物事のしめくくり。
8. 詩歌を数える助数詞。
9. つげる。もうす。
10. したがう(従)。
11. むかう(向)。頭をむける。

 

「頚」の場合は、たて長い意を持つ形声文字で、「頭のうちの長いところ」という意味があります。字義はこんな感じ。

 

1. くび。頭と胴体との接するところで、前が頚(のどくび)、後が項うなじ(くびすじ)である。
2. 物のくびに似たところ。中央部。

 

こうして並べてみると、「首」と違って、かなり限定した意味であることがわかります。

鬼の急所は、頭を支える、細長い部分であることが重要になってくるようです。

鬼の急所として、なぜ頚を狙うのか

鬼の急所が頚となる理由として、何があるのか?

数は少ないですが、頚と体が分かれてしまったケースで見ていくと、こんな特徴が見えてきます。

 

お堂の鬼(第1巻 2話)
狭霧山に行く途中の峠で出没した鬼。炭治郎に襲いかかったとき、禰豆子に頭を蹴り飛ばされて、体から首がもげてしまう。

もげた首から生えたのは腕、体から首などは生えてこない。

体は、かなり高い崖から落下したため、腕、脚を残して形を残さないほど損壊してしまった様子。朝日が当たった頭は炎上して、塵となって消えてしまう。

 

プラナリアのような再生能力を持つ鬼ですが、頭と体に分かれたからといって、頭から体が生えてきたり、体から改めて頭が生えてきたりするのは、あまりないみたいですね。

半天狗の例がありますが、血鬼術で現れた鬼が分裂しているのであって、半天狗の本体が分裂するわけではないようです(第12巻 106話)

お堂の鬼は体が潰れてしまったためか、木に固定された頭はしばらく気を失っており、「体の方が死んだのか?」といったモノローグがあります。

鬼を殺すには太陽の光か日輪刀を使うしかないとされていますが、死んだと感じるほどのダメージというものはあるみたいです。

鬼殺隊に入る前の無一郎くんや、悲鳴嶼さん、不死川さんのケースもあるので、特に頭などに大きなダメージがあると、再生するのも簡単にはいかないのかもしれません。(第14巻 118話、第16巻 135話、第19巻 168話)

 

那田蜘蛛山 首のない鬼(第4巻 31話)
蜘蛛の鬼(母)の糸に操られている、首がないのに体が崩壊していない鬼。

右の首の付け根から左の脇下まで日輪刀で切ることで崩壊する。

 

頭がなく、胴体のみですが、「日輪刀で斬られたわけではない」と考えると、お堂の鬼と同じケースですよね。

炭治郎は、「右の頚の付け根から、左脇下まで斬ってみよう。広範囲だしかなり硬いと思うが多分…」(第4巻 31話)と、判断します。

何故この発想に至ったのかはわかりませんが、切り込むべき場所を見つける ”隙の糸” (第1巻 6話)の匂いに気づくことができる炭治郎のこと、沼の鬼、響凱と戦いを重ねたことで、何かを嗅ぎつけていたのかもしれません。

興味深いのは、日本語の言葉としての「におい」には、鼻で感じる刺激の「におい」と、目で感じる刺激の「におい」があるところですよね。

「角川 新板 古語辞典」によると「にほひ」は、「色・艶・香りなどの好ましく優れていることをいう」と説明されていて、鼻で感じる「にほひ」は3番目なのです。

 

1.色が、ただよいでいるように美しいこと
2. 艶があって美しいこと
3. よい香り

例「風に吹き赤められたるつらつきの─は、色々散りまがふ紅葉の錦よりも、─ことに見ゆるに」(狭 衣ニ)

 

順番は変わりますが、これは現代の言葉にも通用する感覚です。「新明解国語辞典」によると、「におい」はこんな感じで、やはり「視覚」が含まれます。

 

1. (そのものから漂ってきて)鼻で感じられる(よい)刺激、かおり。(広義ではそれらしい趣をも指す。例、「下町の─」
2. [雅]美しい色つや。(狭義では、日本刀の刃の表面に現れる煙状の模様や、よろい・かさねなどの染め色が下になるにつれて薄くなるものなどを指す。

 

ともあれ、炭治郎の指摘した部分を日輪刀で袈裟斬りにすることで、鬼の体は崩壊します。

つまり、鬼の急所は頚そのものではなく、斬り離すべきものが別にあること、鬼の体は硬いので斬るのは容易ではないけれど、細い頚なら比較的容易に斬り離すことができるため頚を狙っているということがわかります。

実際の袈裟斬りと比較しても、本来とは少し違う場所を狙っていたことがわかりますよ。

 
参考 居合道の哲学(袈裟斬り) | 武士道美術館
 

袈裟斬り
 

「A」は「武士道美術館」さんで紹介されていた袈裟斬りの場所。「A’」は伊之助の斬り方と比較できるように反転させてみました。「B」は炭治郎に言われるとおり、伊之助が斬った場所です。

比較すると、Bはちょうど「心臓」の上を通るみたいですね。

では、心臓から斬り離すものは何だったのでしょう?

無惨の把握(呪い)から見える、心臓とつながるもの

鬼の急所で考えると、「頭」と「心臓」の2つが重要なポイントということを考慮しつつ、「鬼舞辻の把握(呪い)」として原作で明示されている点をまとめてみると、こんな感じになります。

 

・己の血を分け与えた者の思考を読み取ることができる
・姿が見える距離なら、全ての思考の読み取りが可能
・離れれば離れる程、鮮明には読み取れなくなるが、位置は把握している

(第6巻 52話)

 

そういえば、第6巻 51話、52話で見せたように、無惨様は釜鵺の思考を読み取ったり、累の視覚から得た炭治郎の姿を魘夢と共有したりしていました。

このことから、頭でも、特に「脳」が重要な臓器になりそうです。日輪刀で「脳」と「心臓」が分かれる状態にすることができればいいわけですね。

さらに珠世さんによると、他の鬼にはできないけれど、無惨様だけができることがありました。

 

これが”呪い”です。体内に残存する鬼舞辻の細胞に肉体を破壊されること。
鬼舞辻は鬼の細胞の破壊ができるようです。

(第3巻 19話)

 

朱紗丸は、無惨様の名前を口にしたことで、裏切る可能性がある者として処分されてしまいました。でもその様子を見ると、呪いが形になるまで少し間が空くことがわかります。何か物理的な問題でしょうか?

そういえば、「鬼舞辻の呪い」として無惨様の細胞が鬼の体を破壊するとして、脳でキャッチした裏切りのアラートを、体にある他の無惨様の細胞に伝える必要がありそうです。どうやって伝えているんでしょう?

これは、心臓の機能を考えあわせるとすっきりしますよ。

心臓には2つの循環系があって、肺を循環する小循環(肺循環)と、体を循環する大循環(体循環)があります。

小循環では約3~4秒、大循環では、約20秒~50秒ほどで1周することができるみたいです。

 

・心臓→肺動脈→肺→肺静脈→心臓(肺循環・小循環)1周するのは約3~4秒

・心臓→大動脈→動脈→毛細血管→静脈→大静脈→心臓(体循環・大循環)1周するのは約20秒

 

つまり、予め脳と心臓に寄生して、それぞれを直通のネットワークでつなげておけば、必要最小限のシステムですむわけですね。

鬼の思考を察知・問題が発生した時点で心臓の血流にのれば、1分とたたない間に体中を巡ることができますから、無惨様の再生力で細胞を増やしていけば、あっという間に体中にダメージを与えることができるわけです。

このネットワークの根幹を日輪刀で断ち斬ることが、鬼殺隊の鬼の頚を斬る目的ということになりそうです。

こうしてみると、「鬼の頸を斬る」というだけでも、かなりしっかりした組み立てがありそうですね。

当ブログには、他にも「鬼滅の刃」に登場する鬼について考察している記事があるので、よかったらこちらも覗いてみてくださいね。

 

 

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