植物学者・青葉が教えてくれる、宇髄さんの爪と錆兎の名前

藍の葉

Les Miserables” seems woven into “JOJO’s Bizarre Adventure”. “Demon Slayer” may also have “Les Miserables” as the key to consider.
「ジョジョの奇妙な冒険」には「レ・ミゼラブル」が織り込まれているようです。「鬼滅の刃」も「レ・ミゼラブル」が考察の鍵になるかもしれません。

I think “botanist” might be a clue.
「植物学者」がヒントになりそうです。

(この記事は、「鬼滅の刃」9巻、12巻、23巻、ファンブック第一弾、週刊少年ジャンプ2017年34号、吾峠呼世晴画集「『鬼滅の刃』─幾星霜─」のネタバレを含みます)
 

「鬼滅の刃」と「ジョジョの奇妙な冒険」は、ちょっと似ているところがあります。

別記事でも考察したように、これはその漫画を見れば、「鬼滅の刃」の考察のヒントが見つかる「仕掛け」になっているといえそうです。

「ジョジョ」の場合、作品の中に「レ・ミゼラブル」(1862年)が織り込まれていましたが、「鬼滅の刃」も「レ・ミゼラブル」が織り込まれているみたいです。

物語の鍵となる「植物学者」

例えば、幼い頃から祖父に嘘の父親像を吹き込まれていたコゼットの恋人・ユリウスに、彼の父親の真の姿を伝えたマブーフ氏は植物の研究家でした。

財産管理を失敗し、頼りにしていた兄も亡くして、パリのはずれに引っ越すのですが、フランスに藍を根付かせようと研究を続けています。

「鬼滅の刃」では、伊之助の子孫が植物学者として登場します。(23巻 第205話)

新しく発見された青い彼岸花の研究をしているのですが、うっかりミスで花を枯らしてしまったため、登場時は研究所を首になる瀬戸際にありました。妙に重なるんですよね。

インディゴにまつわるもの

藍はインディゴ染めの原料で、虫よけや蛇よけに効果があるとされるピレスロイドという成分が含まれています。ジーンズが青い色をしているのは、今のように化学染料が使われる以前、鉱山で働く人たちを蛇や虫から守るために天然のインディゴが使われていたからだといいます。

「レ・ミゼラブル」では、最終章に出てくる「六月暴動」はパリ市民による王政打倒の暴動だったわけで、マブーフ氏が栽培に取り組んでいたインディゴ(藍)は、労働者階級を象徴するブルーカラーをイメージさせますよね。

日本でも、藍は害虫や蛇避けの効果を期待して、庶民の着物や作業着などに使われていました。燃えにくく、保温性にも優れていることから、火消しの半纏にも使われています。

つまり日本の場合、藍は火にまつわる色でもあるわけで、火の神カグツチにつながる色ともいえそうです。

「鬼滅の刃」に出てくる青い彼岸花の「青」は、もしかすると藍の青なのかもしれません。

 
参考 藍について | 武庫川女子大学 牛田研究室
参考 「言葉と文化のミニ講座 Vol.72 小説『レ・ミゼラブル』 ~偉大なる近代人の物語~ | 明星大学
 
 

インディゴにつながる「鬼滅の刃」

興味深いのは、インディゴ(indigo)という言葉には「インドから来たもの」という意味があるところです。インドでつくられた藍は、シルクロードを通ってヨーロッパに伝わっていたことを表しているんですね。

下の図の黒い線は陸のシルクロード、青い線は海のシルクロードです。

 
菩提達磨が来た道
 

インドといえば、炭治郎や猗窩座のイメージが重なる達磨大師の故郷です。

達磨大師は青い目をしていたという伝説があり、色は違いますが赤みを帯びた炭治郎の目に重なるところがあります。

二人とも耳飾りをつけているところも似てますよね。

「藍」は「達磨大師」のキーワードにつながるヒントにもなっていそうです。

日本の藍につながる、神剣・草薙剣

日本には中国から藍がもたらされたと考えられています。大宝賦役令(たいほうぶやくりょう)にも藍に関わる記述があることから、奈良時代には栽培が始まっていたようです。

一説には、成務天皇の時代(第13代)に出雲で栽培されるようになったという話があります。

成務天皇といえば日本武尊(やまとたける)の異母兄弟。日本武尊には神剣にまつわる伝説があります。

熊襲討伐を成し遂げた後、日本武尊は父・景行天皇(第12代)の命により、東国遠征へ向かいます。その途中、叔母・倭姫命(やまとひめのみこと)に別れの挨拶をするために伊勢神宮へ寄るのですが、このとき草薙剣を授けられるのです。

「日本書紀」の一説では、日本武尊が帯びていたのは叢雲の剣(むらくものつるぎ)で、賊の計略で野火に巻かれたとき、自然に抜けて傍らの草を薙ぎ払ったことから「草薙」と名付けられたといいます。

叢雲の剣というのは、素戔鳴尊(スサノオノミコト)が出雲国で八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治したときに、尾の中から出てきた霊剣のことです。

天照大神(アマテラスオオミカミ)に献上されたものが天孫降臨の際に三種の神器の一つとして瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に授けられ、垂仁天皇(第11代)の時代に伊勢神宮に移されていたのです。

「鬼滅の刃」でも、刀鍛冶の里編で叢雲の剣にイメージが重なる刀が登場します。(12巻 第104話)

 
参考 阿波学会研究紀要 郷土研究発表会紀要第35号 藍・染色・織物に関する調査 | 徳島県立図書館
参考 日本書紀 巻第七 大足彦忍代別天皇 景行天皇
 

天日鷲命を祀る鷲神社と宇髄さん

松之大廊下で、浅野内匠頭が吉良上野介に斬りかかる「松の廊下事件」が発生した頃、阿波国は徳島藩が藍染めを保護・奨励したこともあって、一大産地となっていました。(1700年代)

阿波藍の歴史は古く、その起源ははっきりしませんが、天日鷲命(アマノヒワシノミコト)を祖神とする阿波忌部(あわいんべ)が古くから関わっていたといいます。

吉野川流域に勢力を広げていた集団で、農業、養蚕、織物、製紙、弦楽器を主とする音楽、建築、漁業、農業土木技術などに優れた技術集団だったと考えられています。

「大日本神名辞書」(大正元年)や「古史伝」(文政8年)によると、天日鷲命は天照大神がこもる天之岩戸を開かれた天手力雄命(アメノタヂカラオノミコト)の子とされる神様で、穀(かじ)の木や麻、楮(こうぞ)を植えて、製紙、製麻、紡織などの産業を創始したといいます。

媒染剤のような技術を使わずに麻を染めることができるのは、藍と柿渋くらいということもあり、麻と藍は古くから関わりが深かったようです。

 
参考 「忌部」とは | 日本の原点を見つめ未来を創る 一般社団法人 忌部文化研究所
参考 藍栽培と沈殿藍 | みき(藍の仕事&彩波出版)
 

浅草にある鷲神社は天日鷲命を祀る神社で、隅田川流域を中心に紙漉き業を営む人達の篤い尊信を受けていました。

 
鷲神社
 

そばには、新吉原猿若町の芝居小屋があったようです。

上の地図でいうと、「吉原神社」や「吉原弁財天」のある辺りが新吉原。吉原神社は、吉原にあった5つの稲荷社を合祀した神社です。

「江戸猿若町中村座跡」は、猿若三座の一座、中村座のあった場所です。2丁目に市村座、3丁目に河原崎座(守田座)がありました。

新吉原は「遊郭編」の舞台。歌舞伎はファンブックでも煉獄さんの趣味と紹介されていて(第一弾 50頁)、一条天皇へつながる8代将軍・徳川吉宗に重なる重要なキーワードでした。

こうしたキーワードのそばに、藍に関わる神様が祀られているのは興味深いですよね。

この神社は酉の市発祥の神社といわれ、11月の酉の日に行われるお祭りは、年によって三の酉まであるのですが、「三の酉がある年は火事が多い」といい、火に縁のある神様でもあります。

藍に重なる宇髄さんのイメージ

鷲神社の社伝によると、天照大神(アマテラスオオミカミ)が隠れた天之岩戸の前で天宇受売命(アメノウズメノミコト)が舞を舞ったとき、この神様は弦(げん)という楽器を奏でていたといいます。

天之岩戸が開かれると、どこからともなく飛んできた鷲がその弦の先にとまったので、神々は「世を明るくする瑞象を現した鳥だ」と喜び、以後、鷲の一字を入れて鷲大明神(オオトリダイミョウジン)、または天日鷲命と称されるようになります。

 
参考 鷲稼成守 | 浅草 鷲神社
参考 天日鷲神(八百萬の神々 | 八百萬の神々と仏たち
 

天日鷲命は弦という楽器を司る神様で、藍に深い関わりがあるというわけです。音柱の宇髄さんに重なりそうですよね。

宇髄さんの爪は黄緑色と紅色が交互に塗られていましたが、年季が入った藍師の爪は濃い藍色に染まっているので、ちょっと宇髄さんを思わせる雰囲気があるのです。

興味深いのは、藍には「二藍」(ふたあい)という言葉があるところ。

「源氏物語」の第三十三帖「藤裏葉」(ふじのうらば)にも出てくる言葉で、藍染めの上に紅を染め重ねた青紫を意味します。二藍の「藍」は「紅花」と「藍」の2種類の染料を表しているんですね。

若い人が用いる衣装には紅を強めに、年配の人が用いる衣装には藍を強くして染めていました。

週刊少年ジャンプ2017年34号の表紙に描かれた宇髄さんは、爪の色が青と赤で、ちょうど「二藍」の藍と紅花の色に一致します。ただ、吾峠呼世晴画集「『鬼滅の刃』─幾星霜─」(149頁)では、「黄緑が正しいです」とワニ先生のコメントがあり、修正しようとして忘れていたと説明されているので、黄緑色が本来の色になるようです。

でも、間違えた色が青色だったのはどうしてなんでしょうね。ちょっと関わりを感じてしまいます。

ちなみに、黄緑色の一種である「若葉色」の「若葉」は初夏を表す季語です。松尾芭蕉の「奥の細道」には「若葉」と「青葉」を詠んだ句があります。

 

あらたふと 青葉若葉の 日の光
ああ、貴いことだ。霊峰の草木の新緑にも権現様(神君家康公)の威光にあふれている。

※「日の光」には東照大権現(神君家康公)に重ねられた太陽の光と、日光の地名が読み込まれています

 

この句は、芭蕉が日光東照宮を参拝した折に詠んだ句です。徳川家康は伊之助にイメージが重なる人物でした。「青葉」は伊之助の子孫の名前ですよね。

「若葉」が歌に詠まれ始めるのは、平安朝の紫式部の時代のこと。近世になって木の若葉に限定して使われるようになり、大正時代に季語となりました。

旧暦でいうと4月。新暦でいうと4月下旬~6月上旬頃にあたります。

「鬼滅の刃」9巻のカバー折り返しには笹の葉が描かれています。伎夫太郎のイメージが重なる藤原顕光が亡くなったのは5月25日、新暦7月7日のことでした。どちらも「若葉」が表す季節に近いんですよね。

そして紅花の雅称は「末摘花」で、「源氏物語」五十四帖の巻名でもあります。

一条天皇につながる「源氏物語」が「鬼滅の刃」の中に様々な形で織り込まれていることを考えると、宇髄さんの爪の赤い色もその一つと考えることができそうです。

インディゴと錆兎の科学的な関係

この他、インディゴには錆兎につながるイメージも隠れているようです。

藍の葉は乾燥させて保管することが出来ますが、そのままでは水や湯に溶けないので染めに使うことができません。

微生物が発生する水素を使ってインディゴを還元させ(白藍)、アルカリの性質を持った灰汁を使って水に溶ける形(水酸化物)にします。

ここに糸や布を浸して繊維に色素を吸着させ、空気に触れさせる(酸化)ことで、青い色を発色させて色素を定着させるのです。

金属の鉄も、酸化した状態の鉄鉱石を高温状態にし、炭素による還元反応を利用して、人の力をかけた鍛錬によって金属の鉄を取り出します。

そして、金属の表面にできる錆は、酸素や水が化学反応を起こすことで発生します(酸化)。

錆兎の名前にある「錆」と藍は、化学反応で見ると同じなんですね。

まとめ

「レ・ミゼラブル」の植物学者につながる「藍」は、「鬼滅の刃」の様々な要素を含んでいるようです。

ちなみに藍に匂いはありませんが、藍染めには独特の香りがあります。藍染めの製造過程で行う発酵が匂いの元になっていて、これが藍染めの防虫効果になっていると考えられています。並外れた嗅覚を持つ炭治郎を連想させる特徴ですよね。

当ブログには藍に関係する記事が他にもあります。古代、「青」は「藍や緑~黒や白に近い色」と、かなり範囲の広い色だったみたいなので、炭治郎の羽織も「青と黒」といえるみたいですよ。

伊之助の日輪刀は藍鼠色。藍みがかった鼠色で、藍に関連する色になるようです。

 

 

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