疱瘡でつながる、煉獄さんとミミズクの関係

シマフクロウのイメージ

Kyoujurou Rengoku and the owl seem to be related through the pox.
煉獄杏寿郎とフクロウは、痘痕を介して関係がありそうです。

(この記事は、第7巻、ファンブック第二弾のネタバレを含みます)
 

煉獄さんは独特の目つきをしています。ずっと見開いているような目は、眼力というより怖さを感じる人もいるようで、独特なヘアスタイルと相まって猛禽類をイメージする人も多いですよね。

第7巻 54話では炭治郎も「どこ見てるんですか」とツッコミを入れるほどですが、この目の秘密はファンブックにヒントがありそうですよ。

霞柱・時透無一郎から見た本音が、煉獄さんは「梟みたい」と書かれているのです。(ファンブック第二弾113頁)

煉獄さんはフクロウか、ミミズクか

フクロウを新明解国語辞典で調べてみると、こんな説明があります。

 

ふくろう
ミミズクに似て、夜活動する中形の鳥。全身茶色で、目は大きく、その周囲に放射状の羽が有るが、ミミズクと違って、耳状の部分が無い。ふくろ。

 

フクロウには耳のような羽根がないんですね。

そしてミミズクにはこんな説明がありますよ。

 

みみずく
形がフクロウに似て、森などにすみ、夜行性で小動物を捕食する鳥。頭はネコのように丸く、耳状の長い毛が有る。ずく。
表記:古来の用字は、木菟

 

頭の上にある耳のような羽は、「羽角」(うかく)とか「耳羽」(じう)と呼ばれるのですが、これのあるものがミミズク、ないものがフクロウという説明になっています。

無一郎君は「フクロウ」と言っているのに、煉獄さんのヘアスタイルでは「ミミズク」、これではなんだか当てはまらないような…。

ただ、この分け方には例外もあって、羽角があるのにフクロウと呼ばれる鳥もいるようです。「ウサギフクロウ」と「シマフクロウ」です。

ウサギフクロウはタテジマフクロウとも呼ばれる鳥で、メキシコ南部~ウルグアイにすんでいます。

シマフクロウは日本、中国、ロシアにすんでいますが、日本では北海道のみに見られる鳥で、アイヌではコタン・コロ・カムイ(人の住む村や集落を守る神様)と呼んでいます。

無一郎君の本音と、煉獄さんの容姿がぴったり合うのは、シマフクロウということになりそうですね。

このようにフクロウとミミズクはちょっとややこしい生き物ですが、生物の分類ではフクロウもミミズクも「フクロウ目フクロウ科」で、実際のところはどちらも同じ分類と言っていいようです。

でも、ミミズクに限ると、興味深い風習とイメージがあるみたいですよ。

 

疱瘡絵に好んで描かれた、赤いミミズク

 
ミミズクと春駒

This ukiyoe picture features an owl and a harukoma. It is called Housoue “疱瘡絵” and is represented in red to protect the sick child from smallpox.
これはフクロウと春駒が描かれた浮世絵です。「疱瘡絵(ほうそうえ)」と呼ばれ、病気の子供を天然痘から守るために赤一色で表現されています。

The owl’s eyes are wide open to avoid blindness from the high fever of smallpox.
ミミズクは、天然痘の高熱による失明を免れるように、大きく目を見開いています。

Harukoma is a child’s plaything for the New Year. These paintings depict auspicious objects.
春駒はお正月の子どもの遊び道具。こうした絵には縁起のいいものが描かれます。

 

かつて子どもの病気で恐れられたものの一つに、疱瘡(天然痘)がありました。そして、疱瘡の患者が出ると、患者の身の周りのものをできるだけ多くの赤いもので整えるという風習がありました。

患者が赤い衣類を着るのはもちろん、布団、足袋、玩具、食べ物、祀っている疱瘡神の装束、供物、そして看病をする人も赤い着物を着るなど徹底していたようです。

これは古くから「赤」には疱瘡神をはじめとする病魔・鬼神を退散させるという言い伝えがあったためでもありますが、「疱瘡の痘疹(とうしん)が赤い色をしているものは軽くすむ」ということが経験的に知られていたことも影響しているようです。

「赤もの」(赤い色のもの)で身の周りを固めることで、痘疹の色も赤くなって、病気が軽くすむことを願っていたと考えることができるみたいですよ。

 

屏風衣桁に、赤き衣類をかけ、そのちごにも、赤き衣類を着せしめ、看病人も、みな赤き衣類を着るべし、痘の色は赤きを好とする故なるべし

「小兒必用養育草」香月牛山(元禄16年、1703年)

 

参考 疱瘡絵の文献的研究 川部裕幸 | 日本の論文をさがす CiNii Articles
 

実際、臨床的には致死率が20~50%にもなる”variola major”と、1%以下の”variola minor”の2種類があるそうで、国立感染症研究所ホームページにも紹介されています。

 
参考 天然痘(痘そう)とは | NIID 国立感染症研究所
 

こうした文化的な背景の下で発展してきたのが、赤のみの単色で摺られた浮世絵版画「疱瘡絵」です。

同じ赤い色をしていても、張り子の置物や玩具に比べるとお手頃で手に入れることができるので、子どもの疱瘡患者のお見舞いに重宝されていたと考えられています。絵のモチーフも子どもの喜ぶ「おもちゃ絵」が多いのだそう。

そんなモチーフの一つが「ミミズク」なんですね。

 
参考 疱瘡絵の文献的研究 川部裕幸 | 日本の論文をさがす CiNii Articles
 

ミミズクと山の神の関係

大きく見開いたミミズクの目は、「疱瘡の高熱で失明しませんように」という親の願いが込められているといいます。

こうした疱瘡絵のミミズクと重ねられているとしたら、煉獄さんの目が大きく見開いているように描かれているのも納得ですよね。

ミミズクは羽角を強調して表現されることが多いみたいですが、これは「飛び跳ねるウサギのように子どもが元気に回復しますように」という願いが込められているとも、「ウサギの血肉を食べさせると疱瘡から回復するとされていたことと関わりがある」とも考えられるようです。

 
参考 今月のおもちゃ | 日本玩具博物館
 

「角川 漢和中辞典」によると、「菟」は「兔」と同義語の漢字になるようで、「木菟」という字は「木にすむウサギのような耳を持ったもの」という意味の当て字と解釈できそうです。

そういえば「鬼滅の刃」の遊郭編で、炭治郎が禰豆子に歌った子守唄の中にも赤い目をした「子うさぎ」が出てきました。

ウサギは山の神と同一視されたと考えると「ウサギを子育ての守護神」とみなすことができると考える研究者もいるので、羽角の長いミミズクも山の神につながるウサギとしてイメージすることができそうです。

 
参考 ウサギの神性について “The Divinity of Usagi,the Hare” 赤田光男 | 日本の論文をさがす CiNii Articles
 

炭治郎や禰豆子には山の神月の神のイメージがいくつも描かれていましたが、煉獄さんも同じように、山の神のイメージが隠れていそうですね。

 
【追記】隠れていました(汗)

 

ちなみに新明解国語辞典を見てみると、「木菟」は「古来の用字」と解説されていました。この言葉はけっこう古いみたいで「日本書紀」にも出てきますよ。

該当カ所は「大鷦鷯天皇、仁徳天皇・巻第十一」で、こんな話。

 

初天皇生日、木菟入于産殿、明旦、譽田天皇喚大臣武內宿禰語之曰「是何瑞也。」大臣對言「吉祥也。復、當昨日臣妻産時、鷦鷯入于産屋、是亦異焉。」爰天皇曰「今朕之子與大臣之子、同日共産、並有瑞。是天之表焉、以爲、取其鳥名各相易名子、爲後葉之契也。」則取鷦鷯名以名太子曰大鷦鷯皇子、取木菟名號大臣之子曰木菟宿禰、是平群臣之始祖也。是年也、太歲癸酉。

初め仁徳天皇が生まれた日のこと、産殿(うぶとの)に木菟(つく)が飛び込んできました。翌早朝に、誉田天皇(ホムタノスメラミコト)は武内宿禰(タケノウチノスクネ)を呼び寄せて語って言いました。「これは何の兆しか?」。

大臣は答えて、「吉祥です。昨日、私の妻が出産するにあたり鷦鷯(さざき)が産屋(うぶや)に飛び込んできました。これも不思議なことです」と言った。

それで天皇は言いました「今、私の子と大臣の子が同じ日に共に生まれた。同じように何かの兆しがある。これは天つ表(あまつしるし)である。その鳥の名前をとって、それぞれ取り替えて名前をつけ、後の世の契としよう」。

鷦鷯(さざき)の名前を太子に名付けて大鷦鷯皇子とし、木菟の名を大臣の子に名付けて木菟宿禰(ツクノスクネ)とされました。これは平群臣の始祖です。この年は太歳癸酉です。

 

仁徳天皇の物語に出てくるように、鳥は神様から示されるメッセージと解釈されていたようで、ミミズクを神使とする神社もあります。

姫路の射楯兵主神社はミミズクを神使とする代表的な神社で、興味深いお祭りがあるのですが、これは長くなりそうなので別記事にまとめてみました。よかったらこちらも覗いてみてくださいね。

 

 

タイトルとURLをコピーしました