既存の漫画の中には、「鬼滅の刃」のヒントが隠れているものがあります。
Orihime Inoue of “BLEACH” may also be hiding important hint.
「BLEACH」の井上織姫も重要なヒントが隠れていそうです。
(この記事は、「鬼滅の刃」1巻、7巻、10巻、11巻、12巻、ファンブック第一弾、「キメツ学園!」1巻、「BLEACH」1巻、5巻のネタバレを含みます)
「鬼滅の刃」は、既存の漫画に似せた要素がいくつかあります。似ている漫画をよく見ると、「鬼滅の刃」の物語に関するヒントが隠れているみたいです。
例えば、不死川玄弥は漫画「BLEACH」(久保帯人)の斑目一角と共通するセリフがあります。
その斑目一角の名前を構成する漢字、「斑」「目一」「角」には、「鬼滅の刃」の物語のヒントが隠れていました。
さらによく見ると、「BLEACH」にはもう一人、名前にヒントが重ねられたキャラクターがいるようです。ヒロインの井上織姫です。
井上織姫と「鬼滅の刃」の共通点
というわけで、「鬼滅の刃」と井上さんには、こんな共通点があるようです。
… 禰豆子の趣味は裁縫(ファンブック第一弾 34頁)
6枚の花びらの髪飾りをつけている(BLEACH 1巻 2.)
… 1巻のカバー折り返しに、六枚の萼片が花びらに見える鉄線の花が描かれている
兄・井上昊(いのうえそら)の「昊」という漢字には、「太陽のかがやく大空」という意味がある(1巻 3.)
… 炭治郎の無意識層は青空と、その空を映す鏡のような水面がどこまでも広がる世界。精神の核は太陽のように光とぬくもりの発生元になっている(7巻 第57話)
…「鬼滅の刃」では物語の鍵として、炭治郎の耳飾りのデザインや日輪刀など、「日輪」がキーワードになっている。
この「織姫」の名前が鍵となっていそうなのが、上弦の陸・堕姫と妓夫太郎です。
「妓夫太郎」というのは遊女屋の客引きなどの雑用をこなす男性のことで、「鬼滅の刃」本編でも説明があるように、「妓夫」、「ぎう」、「牛太郎」といった呼び方があります。
そして妓夫太郎は、「役職名をそのまま名前としてつけられた」と説明されていて、それは「妓夫太郎だけではないだろうか」と書かれています。
でも、本編の中でこんなふうに鬼の名前に関して触れているのは、妓夫太郎だけなんですよね。
「妓夫太郎」はちょっと特別な名前になるようです。
妓夫太郎とつながる七夕の牛郎
井上織姫の名前にある「織姫」は、織女とも呼ばれる仙女のことで、七夕伝説の「牛郎織女」のヒロインです。
「牛郎」(ぎゅうろう)というのは、中国の「神仙伝」(西晋・東晋時代)、「晋書」(648年)、「隋書」(636年)にも出てくる言葉で、牛飼いや牽牛(彦星)を意味します。
「牛郎」と「牛太郎」、ちょっと似てますよね。
ネットの用語解説や掲示板の情報によると、中国語の隠語でホストのことを「牛郎」と言うという話もあり、妓夫太郎にイメージが重なりそうです。
参考 中国語でホストの事を牛郎というそうですが語源は何ですか? | Quora
参考 中国七夕の日本における受容 吉村誠・殷善培 | Journal of East Asian Identities
遊女と織女の関係
また、織女には、吉原の遊女と重なるイメージがあります。
三味線音楽の上方唄「文月」では、「文月の星のあう夜をうらやみて、残る思いの蛍がり」と、七夕に出会う牽牛と織女をうらやむ吉原の遊女の心情を唄っています。
鋼鐵塚さんの名前の「蛍」が絡んでいるところも、ちょっと興味深い唄ですよね。
陰暦七月の異名。
三代目中村歌右衛門が江戸で上演した演目の中で「文月」を使い、それを大阪へ持ってきたため、上方唄に分類される地唄なのに内容は江戸吉原を唄っているという、ちょっと変わった地唄になっています。
三代目中村歌右衛門は文化・文政期の上方歌舞伎界を代表する役者で、先々代が確立した実悪(天下を狙う大悪人などの役)も演じていたといい、ちょっと「うそぶき」のイメージが重なるところがある役者さんだったようです。
陰暦七月七日の夜、牽牛織女の二星が互いに出会うこと。初秋の季語。
歌舞伎「高尾懺悔の段」では、傾城高尾の亡霊が、「殿御(とのご)恋しき機織虫よ」と、想い人を恋しく思う遊女を機織虫に重ねて、八百屋お七に物語ります。
機織虫はキリギリスの古名で、秋の季語。機織女(はたおりめ)ともいいます。
機織女は機を織る女性のこと。「機織女」という言葉が直接、織女星につながるわけではないようですが、イメージはつながりそうですよね。
秋の季語には機織姫(はたおりひめ)という言葉もあり、これは織女星の異称になっています。
ファンブックでは、堕姫は遊郭で不動のナンバーワンの人気を誇っていたと説明されていて、織女星のイメージが重ねられていそうです。(ファンブック第一弾 109頁)
「傾城」は遊女のこと。「高尾」は江戸前期から中期にかけて三浦屋で代々襲名された太夫の源氏名です。
「高尾懺悔」のモデルとなったのは、一説に仙台高尾と呼ばれる二代目高尾太夫といわれていて、明暦の大火の後、新吉原へ移ったころに花魁として活躍。仙台藩主・伊達綱宗に身請けされるのですが、想い人に操をたてて従わなかったため、綱宗に殺害されたと伝えられています。
八百屋お七
江戸本郷の八百屋の娘で、落語などでは恋人に会いたい一心で放火事件を起こしたとされています。
高尾懺悔では、火をつけたお七は人々に追われ、吉原堤の高尾太夫を葬った塚の前で気を失って倒れているところに高尾太夫の亡霊が現れます。
参考 地唄の歌詞 文月 | 地唄舞普及協会
参考 三代目 中村歌右衛門 | 上方浮世絵館
参考 大阪府立中之島図書館だより「なにわづ」 No.134 三代目中村歌右衛門という役者 | 大阪府立中之島図書館
織姫とお七にまつわる数字
妓夫太郎にはこんなセリフもあります。
俺が十五で妹が七、喰ってるからなあ
(10巻 第88話)
織姫には、妓夫太郎のこのセリフと一致する数字があります。
「詩経」(紀元前11世紀~紀元前7世紀)にある、東国の民の困窮を訴える詩の中に、「織女」という言葉があり、「一日に七度、機を織る」とうたっているのです。
跂彼織女 終日七襄
三つ星の一つである織女は、一日に七度織機に登って機を織る
「『詩経 下』漢詩大系2 集英社1968.6 高田真治」によると、跂は「三隅に三角をなして並ぶ様」と解説されているそう。こと座のα星(ベガ)、β星、γ星のことと考えられていて、β星、γ星は織機、α星は織女に見立てられています。
また、八百屋お七にも興味深い数字があります。
歌舞伎や文楽では、お七は放火をせず、火事を知らせる火の見櫓に上って、半鐘や太鼓を叩きます。火が出ていないのに半鐘や太鼓を叩くことも重罪で、火付けと同じく火刑に処される決まりです。
ただ、15歳を過ぎていなければ罪一等を減じて遠島という定めがあり、捕らえられたとき、お七は数えで16歳になったばかり。白洲で奉行はわざわざ「年は十五であったな?」と確認するのですが、お七は「いえ、十六でございます」と答えるので火刑が決定してしまうのです。
「近世江都著聞集」(1757年)で紹介される「八百屋お七の伝記」は、「15」という数字が大きな見せ場となっています。
妓夫太郎、堕姫、宇髄さんに共通するもの
妓夫太郎のイメージが重なる牽牛星は、わし座のアルタイルです。そして堕姫のイメージが重なる織女星は、こと座のベガです。
鷲と琴、この組み合わせは、宇髄さんにイメージが重なる天日鷲命(アマノヒワシノミコト)につながりそうです。
鷲神社の社伝によると、天照大神(アマテラスオオミカミ)が天之岩戸に隠れてしまったとき、天日鷲命は弦(げん)という楽器を奏でていました。
岩戸が開かれたとき、どこからともなく鷲が飛んできて弦の先にとまったので、神々は「世を明るくする瑞象を現した鳥だ」と喜び、名前に鷲の一字を入れて「鷲大明神」(オオトリダイミョウジン)、または「天日鷲命」と称されるようになったといいます。
鷲と琴が印象的に出てくる天日鷲命の伝説は、こと座とわし座に重なりそうです。
妓夫太郎・堕姫と宇髄さんは、夜空の星の組み合わせに重ねられているのかもしれませんね。
妓夫太郎と北斗七星
そう考えると、妓夫太郎のセリフは北斗七星を指すヒントになっていそうです。
取り立てるぜ俺はなぁ
やられた分は必ず取り立てる
死ぬときグルグル巡らせろ
俺の名は妓夫太郎だからなああ
(10巻 86話)
北斗七星は北極星の周りを1時間に15度ずつ動いて、一昼夜で一回転します。同じ時間に定点観測していると、柄杓の柄は一年で十二方位を指すので、「隠された神々 古代信仰と陰陽五行」では「北斗は絶対に止まらない天の大時計」と表現しています。
北斗の時計が示すのは「農耕の基準」。
「春から初夏にかけて北の中空に横たわる時の、頭の二星を除いた五星が船の形にみえるとき、フナボシとよばれる」といい、沖縄八重山の豊年踊の歌詞の中に歌われる「フナー星」は、農事の目安として北斗七星を歌っている可能性があると指摘しています。
初夏といえば梅雨入りの前くらいなので、下の図のような感じになるでしょうか。
スピンオフ作品「キメツ学園!」で妓夫太郎・堕姫兄弟の名字に沖縄由来の「謝花」が使われているのは、豊年踊でフナー星を歌う沖縄県・八重山を指しているのかもしれませんね。(キメツ学園!1巻 第5話)
それから、北斗七星の6番目の星の外側には輔星と呼ばれる小さな星があるのですが、「隠された神々 古代信仰と陰陽五行」には、この星のことを「寿命星ともいって正月にこの星の見えないものは、その年のうちに死ぬ」と、倉橋島(広島)に伝えられているという興味深い伝承が紹介されています。
北斗七星は、地域によっては人の寿命に関わる星と考えられていたわけですね。
倉橋島も興味深い場所で、北の端に音戸の瀬戸(おんどのせと)と呼ばれる海峡があるのですが、ここは1167年に平清盛によって航行の便を図るために開削工事が行われています。平氏一族に縁のある場所なんですね。
潮の流れが早い難所で、工事は引き潮を待ってその日のうちに完成させる必要があったため、西に沈もうとする夕日を清盛は金の扇で呼び戻して海峡の工事を完成させたといいます。
また、この工事では、一つの石にお経を一文字ずつ書き記した一字一石の経石を海に沈めて、安全祈願が行われました。当時、難工事を行う際には、生きた人間を神に捧げる人柱が行われていたのですが、清盛はこの経石をもって人柱に代えたといいます。
刀鍛冶の里で小鉄くんの特訓を受ける炭治郎が三途の川に落下したとき、川底で光る石を見つける描写が出てきますが、海に沈められた清盛の経石にちょっとイメージが重なりそうです。(12巻 第104話)
堕姫と妓夫太郎に重なる星座
それから、宇髄さんの火薬玉を帯鬼で防いだ妓夫太郎は、こんなことも言っています。
俺たちは二人で一つだからなあ
(10巻 第86話)
この言葉のとおり、妓夫太郎は通常、堕姫の背中に隠れています。
妓夫太郎を北斗七星と考えると、この姿はまるで北斗七星を体の一部とする、おおくま座のようにも見えます。
ギリシャ神話では、おおぐま座は狩猟と貞潔の女神アルテミスに仕えていた、森のニンフ・カリストが姿を変えたものとされています。
神話には様々なバージョンがあるのですが、カリストの美しさに引かれたゼウスがアルテミスになりすまして誘惑したため、ゼウスの子供を身ごもってしまい、息子・アルカスを生んだ後、雌熊に姿を変えられて追放されてしまいます。
処女性を失ったことでアルテミスの怒りを買ったためとも、ゼウスの妃である女神・ヘラから憎まれたためとも伝えられています。
月日がたってカリストは成長したアルカスと再会するのですが、アルカスには母のことは熊としかわからず最後は殺そうとしたため、ゼウスは二人を空に上げ、カリストはおおくま座に、アルカスはこぐま座になったのでした。
カリストのこの散々ななりゆきは、「いいことも、悪いことも、かわるがわる来いよ」と言っていた堕姫と妓夫太郎の姿に重なりますよね。(11巻 第96話)
こんなふうに考えていくと、妓夫太郎の体にある不規則な模様の痣は、天の川を遮る暗黒星雲のようにも見えてきます。
参考 KALLISTO | THEOI GREEK MYTHOLOGY
まとめ
「織姫」を鍵に妓夫太郎と堕姫を見ていくと、「牽牛&織女」のイメージと「北斗七星&おおくま座」のイメージが重ねられているようです。
妓夫太郎が鬼になっても「妓夫太郎」と名乗っているのは、人間として生きていたときの職業が妓夫太郎だったからという理由もありますが、牽牛を意味する牛郎につながると考えると、「妓夫太郎」という名前そのものが重要な鍵と考えることができそうですよね。
「牽牛&織女」の組み合わせは、宇髄さんにイメージが重なる「天日鷲命」につながっていて、遊郭編で堕姫・妓夫太郎兄弟と宇髄さんが対峙したのは当然のなりゆきだったと感じさせます。
そして、妓夫太郎に重なる北斗七星のイメージは、宇髄さんの持つもう一つのイメージと重ねると、さらに重要なヒントになっていきそうです。
長くなるので、北斗七星と宇髄さんの組み合わせは別記事にまとめているので、よかったらこちらの記事も覗いてみてくださいね。