鬼が日光に弱い理由はプラナリアが知っていそうです。
(この記事は、第1巻、第3巻、第5巻、第15巻、第22巻、第23巻のネタバレを含みます)
「鬼滅の刃」に出てくる鬼は、日に当たると炎のようなものを発しながら、骨も残さず消えてしまいます。
昔話に出てくる鬼は、鶏の鳴き声を聞いて逃げ出すことはあっても、燃えて消えたりしませんよね。「鬼滅の刃」に出てくる鬼は、日光に弱いとはいえ、どうして燃えてしまうんでしょう?
しかも、夜に輝く月は、太陽の光を反射して光っています。「鬼滅の刃」に出てくる鬼は夜に活動するのですが、月の光は平気なんでしょうか?
というわけで、この記事では太陽と月の光について調べてみました。
太陽の光には何がある?
実際に存在する生き物に、驚異的な再生能力を持つ「プラナリア」(ナミウズムシ)という無脊椎動物がいます。胴のところで2つに切ると、頭からは尻尾が、尻尾からは頭が生えてきて、最終的には2匹のプラナリアになってしまうという、「鬼滅の刃」の鬼も顔負けの再生力を持っています。
興味深いことに、このプラナリアも光を嫌います。
一定の明るさを保った環境で行われた実験によると、プラナリアは光を目で感じ、その光がより強く、短い波長(紫色)であるほど弱っていき、最後には頭から溶けて死んでしまうそうです。
これは「鬼滅の刃」に出てくる鬼の性質を考えるのに、ちょっと参考になりそうな特徴ですよね。
参考 プラナリアの負の走性と寿命(2016) 中高生の科学研究実践活動推進プログラム | 国立研究開発法人 科学技術信仰機構 次世代人材育成事業
太陽の光は電磁波でできている
では改めて、地球に届く太陽の光には、どんなものがあるのでしょう? 図にしてみると、こんな感じになるようです。
太陽の光は電磁波でできていて、波長が短いほど光子のエネルギーが大きくなり(上図でいうと左方向)、波長が長くなるほど光子のエネルギーは小さくなります(上図でいうと右方向)。
光子のエネルギーが大きいほど物体に衝突するときの影響は大きくなり、物体を構成する分子構造を変化させたり破損させたりしてしまいます。太陽の光の中でも波長の短いものは、生き物にとって危険な存在になるわけですね。
こうした危険な波長に、放射線(X線、γ線)がありますが、大気やオゾン層でほとんどが遮断されてしまうので、地上に届く太陽光には含まれません。
上の図の下向きの矢印は、それぞれの波長の電磁波が、大気圏のどの辺まで入ってくるのかを表しています。
紫外線の場合も、波長の短いUV-CやUV-Bの一部はオゾン層で遮断されているのがわかるでしょうか?
UV-Bの一部と、波長の長いUV-Aのほとんどは地上に届くのですが、それは紫外線の全体でいうと10%程度です。
では、波長の長い電磁波は無制限に入ってくるのかというとそうではなく、赤外線で地上に届くのは約4割強。電波も殆どが吸収されてしまいます。
このように、大気を通ることができる電磁波は限られています。この大気の特徴を「大気の窓」と言ったりするようです。
太陽光の中でダメージが大きいのは紫外線
こうして見ると、鬼やプラナリアに有害なのは「紫外線」ということになりそうですね。
確かに人間にとっても、紫外線はやっかいな存在です。UV-Aは急な変化はありませんが、ゆるやかに肌の奥まで届いてダメージを与えます。
UV-Bは肌の奥に届くことはありませんが、UV-Aの数千倍のエネルギーがあるので、浴びすぎると肌の表面にダメージを与え、数時間後には皮膚が赤くなって、日焼け(紅斑:SUNBURN)を起こしてしまいます。
そして、UV-A、UV-Bとも細胞中のDNA(遺伝子)に傷をつけてしまいます。
こうした傷の大抵は、人の体が本来持っている修復システムによって修復されるのですが、修復しきれなかった「紫外線の傷」は、分裂した細胞に受け継がれて蓄積していくと考えられていて、近年は皮膚が赤くなるほど急に紫外線を浴びることは避けるべきと考えられています。
人間でこれほど影響がある紫外線は、再生能力の高い生き物にとっては計り知れないダメージとなります。
蓄積したダメージの修復が追いつかなければ、再生力の高さはかえってダメージそのものを拡大してしまうことになりかねません。
そういえば無惨様の体にも、400年前に受けた修復しきれていないダメージが蓄積している様子が描かれていましたよね…。(第3巻 18話、第3巻19話、第22巻 194話~第23巻 199話、第23巻 201話)
ちなみに綿製の薄い布1枚を羽織るだけでも、UVカットクリーム(SPF20, PA++)程度のUV対策になるんですよ。
炭治郎が狭霧山へ向かうとき、布を大きくかぶせた竹の籠に禰豆子を入れて運んでいました。禰豆子のUV対策はバッチリです。(第1巻 2話)
月の光は大丈夫なの?
では、月の光はどうなんでしょう?
月の光は、月面で反射した太陽の光が地球に届いているわけだから、印象としては紫外線がありそうです。最近の紫外線対策でも、道路や建物から反射してくる紫外線対策を指摘することがありますよね。
では、直接光を発している太陽と、光を反射している月とでは、何か違いはあるのでしょうか?
太陽と月では光の量が大きく違う
まず、大きく違うのは光の量です。
入ってくるエネルギーに対して、反射するエネルギーの割合をアルベド(反射率)というのですが、月のアルベドは0.07しかありません。
比べて、地球の場合は0.31、金星の場合は0.78もあります。
月は地球の近くで輝いているので、満月などはとても明るく見えるのですが、月には雲も水もないので、天体としてはかなり暗い部類になるようです。
さらに紫外線で見てみると、その量も違うみたいですよ。
月面は紫外線をあまり反射しない
光に含まれる紫外線は、反射するものの種類によって大きく変わってくるのですが、環境省の「紫外線環境保健マニュアル2020」によると、砂浜では10~25%、コンクリートやアスファルトでは10%、土面では10%以下となります。ほとんど吸収されてしまうんですね。
月の表面はどうかというと、ウィキペディアには、「酸素、鉄、ケイ素の割合が多い構成」と書かれていました。
論文の中に、酸素とケイ素の割合が多い砂地の紫外線反射率を計測しているものがあったので見てみると、その反射率は2~5%程度ということで、やはりかなり少なくなるようです。
ブログ「光と色と」さんには鉄の反射について解説があるのですが、紫外線の波長領域での反射は50%程度ということなので、月の表面に鉄の成分が多少あったとしても、紫外線を反射する量が増えることはなさそうです。
参考 月の地質 | ウィキペディア
参考 紫外線カメラによる海浜の紫外線反射率計測 川西利昌、魚再善、緒方健一
参考 金属の光沢と色 | 金属反射と金属光沢 | 光と色と
太陽の光にあって、月の光にないもの
このように、月の光に含まれる紫外線は、太陽の光に比べるとずっと少ないわけですね。
太陽の光が直接当たる日中でも、波長の短い紫外線は大部分が大気に吸収されてしまうわけで、月の光が地上に届く頃には、紫外線が含まれていたとしても、波長の長いUV-Aくらいしか残ってなさそうです。
というわけで、月の光は太陽の光を反射しているけれども、含まれる紫外線にはUV-Bをほとんど含まないと考えられるので、鬼が影響を受けているのは紫外線のUV-Bということになります。
宇髄さん風に言うと「鬼が太陽に弱いのは、UV-Bでド派手な日焼けをしている」ということになるのかもしれませんね。太陽の光による「鬼滅の刃」の鬼退治は、科学の面から見ても理屈が通っていそうです。
さらによく見ていくと、密教や陰陽五行の面から見ても理屈が通りそうですよ。
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