炭治郎の太陽克服は、ヒノカミ神楽と関係があるかもしれません。ヒノカミ神楽を陰陽の法則で見直すと、隠されたヒントが見えてきます。
(この記事は、第1巻、第3巻、第5巻、第6巻、第7巻、第10巻、第16巻、第21巻、第22巻、第23巻、ファンブック第二弾のネタバレを含みます)
太陽克服に影響していそうな、炭治郎が先祖から代々受け継いできたものについては別記事にまとめています。よかったらこちらも覗いてみてくださいね。
この記事では、炭治郎の太陽克服に関して、鬼化する前後に注目して見ていきます。
炭治郎が鬼化してから太陽克服までの過程
炭治郎が鬼になって太陽を克服するまでは展開がとても早く、わずか3話の間でこんなふうに進んでいきます。
・残存する炭治郎の細胞に無惨の細胞が作用、無惨の血に順応して鬼化(第23巻、201話)
・義勇との攻防中に太陽克服(第23巻、201話)
このすぐ後、禰豆子の無惨に対する抗体と、しのぶさんの作った人間に戻す薬が立て続けに投与されます。
・カナヲにより、しのぶさんのつくった鬼を人間に戻す薬を摂取(第23巻、202話)
描かれるのは、光もない幽(くらきところ)」
抗体と人間に戻す薬を接種した直後、カナヲの呼びかける声をきっかけに炭治郎が描かれるのですが、少し様子が変ですよ。
炭治郎の内部だと思われる場所なのに、無限列車の無意識領域に出てきたような暖かくて明るい場所ではなく(第7巻 57話)、物は見えるのに光もなく、無惨の肉の塊だけがあるようです。
古事記「序文」の安萬侶(やすまろ)の回顧に出てくる、伊邪那岐命(イザナミノミコト)を追いかけて伊弉冉尊(イザナギノミコト)が出入りしたという「幽(くらきところ)」を思わせる場所です。
無惨様の肉塊からは、炭治郎が少しはみ出していますよ。一気に取り込むことはできないんでしょうか?
そして、炭治郎には自我があり、無惨様は炭治郎に鬼になるよう説得しているのです。第6巻 52話でのパワハラ会議では、下弦の鬼に対してあれほど問答無用だったのにどうしたんでしょう?
この時点では、禰豆子の抗体も、しのぶさんの薬も、摂取したばかりでまだ効いていないはずですが、無惨様の細胞はうまく働いていないんでしょうか?
振り返ってみると、戦闘中に効果を発揮し始めた珠世さんの薬が他にもあるので、確かに無惨様の細胞はすでに弱っているんですよね。
禰豆子との共通点:無惨様の細胞は活発ではない状態
第16巻 138話の時点で珠世さんが無惨様に投与したのは、以下の4種類の薬です。
・老化の薬
・分裂阻害の薬
・細胞破壊の薬
(第16巻 138話、第22巻 193話、196話)
人間に戻す薬は最終決戦中に分解してしまったようですが(第21巻 180話)、残り3つの薬は時間差で作用しています。
炭治郎の内部でまとわりついていた無惨様の髪の毛は、白い色のままでした。
禰豆子が太陽を克服したときも、禰豆子の免疫力に無惨様の細胞は弱っていた可能性があったわけで、禰豆子が太陽を克服したときと、このときの炭治郎は、同じ状態だった可能性があるわけです。
もしかすると、太陽の克服は、「無惨の細胞を必要としない鬼化」と言っていいのかもしれませんね。
月の神(≒山の神)の影響が人を変える可能性
「鬼滅の刃」では、月に痣のような模様が度々描かれていますが、このとき「月の影響を受けて何かが変化していた」とすると、こんなふうに図にすることができると思います。
禰豆子は月の影響を受けての変化がありましたが、炭治郎は日の呼吸を受け継ぐ者としての素質に呼吸の獲得があって、さらに月の影響があったと考えることができそうです。
改めて炭治郎や禰豆子の変化を見ていくと、こんなふうになります。
“全集中の呼吸”はね、体中の血の巡りと心臓の鼓動を速くするの。そしたら、すごく体温が上がって、人間のまま鬼のように強くなれるの。(第1巻 5話)
私が使った薬はただの回復薬です。鬼専用の…。体を強化する作用はない。
禰豆子さんの力です。人の血肉も喰らわずに、彼女が自分の力で急速に強くなっている。(第3巻 18話)
このように、ある程度までは人間の部分を保ったまま強くなっていくのですが、限界のない禰豆子は一線を越える瞬間がありました。
兄ちゃん、助けて。
姉ちゃんが姉ちゃんじゃなくなる。(第10巻 83話)
こうした変化について、原作では明らかにされていませんが、無惨様の細胞による変化ではない別の何か、「縁壱を作ったのと同じもの」が作用している可能性がありそうです。
陰陽五行で見る、太陽と月の関係
でも、それが月の影響だとして、どうして太陽を克服できるんでしょう?
これは、陰陽五行思想が参考になりそうですよ。
陰陽五行という考え方を生み出した古代中国では、原初、唯一絶対の存在は「混沌」であると考えられていました。この混沌には陰陽の二気が含まれていて、やがて清明の「陽気」が昇って「天」となり、次に重濁の「陰気」が降って「地」となったと説明されています。
「陰陽」は性質が違うけれど、元は一つのもの
陰陽は全く相反する性質を持つ存在ですが、元来は同根でなので、互いに引き合って交感交合する存在です。
天界においては陰陽が交合することで太陽と月(太陰)が生まれ、さらに木星、火星、土星、金星、水星が生まれたと考えられています。
地上においては木火土金水の「五原素」が生まれ、この作用と循環が五行となります。
竈門家は「日の呼吸」を「ヒノカミ神楽」として伝えてきた人々
炭治郎と禰豆子は、代々ヒノカミ神楽を伝えてきた家の子どもたちでした。そしてヒノカミ神楽は、縁壱の日の呼吸を後世に伝えるための舞の型になります。
ヒノカミ神楽は、竈門家では「年の始めにヒノカミ様に捧げるもの」と伝えられていることが第5巻 40話で説明されています。
「年の始め」は一年が始まる”start”で1月1日のことですね。
かつて、一日の始まりは夜から始まる考え方もあったようで、大晦日は年神様(お正月様)を迎えるための準備をする日でした。
ヒノカミ神楽が「日没から夜明けまで延々と続ける」(第5巻 40話)というのも、この辺の時間感覚を意識していそうですよね。
そして、1月1日の朝といえば「元旦」です。
月の運行で進む旧暦では、大晦日は月の欠けが最大となる日。その夜が明ける1月1日は、一年で最初の太陽(初日の出)を迎える日です。
太陽と月で見ると、大晦日と元旦は「陰と陽が交差するポイント」と考えることができそうですね。陰陽五行思想でいう、陰陽が交合することで何か新しいものが生まれる場所です。
炭治郎と禰豆子が月の影響を受けながら変化して、鬼でありながら太陽を克服する存在になるのも、ヒノカミ神楽の背景を考えると自然な流れなのかもしれません。
一年の最後の日。旧暦では12月29日、もしくは12月30日で、新暦では12月31日になります。別名「大晦」(おおつごもり)。
晦(つごもり)は形声文字で、冥(くらい)からきている文字。昼に対して夜の意味があります。角川 緩和中辞典によると、「月がひかりはじめるついたちに対し、光がつきることから、月の終わり、みそかの意」と説明されています。
元日の朝。「元」は人の頭を表す指事で、こうべの意味から、もと、おさ、はじめを意味します。字義には、「天地の大きな徳」という意味もあるみたいですよ。
「旦」は太陽(日)がちょうど地平線(一)から表れ出たさまをかたどる会意文字で、字義には、あした(朝)や、夜明けの意味があります。
炭治郎のその後はどうなる?
ただ、無惨に対抗する力は、禰豆子と炭治郎では少し違いがあるようです。
免疫でいうと、「能動免疫」(のうどうめんえき)と「受動免疫」(じゅどうめんえき)の違いです。
炭治郎と禰豆子の「免疫」は種類が少し違う
禰豆子が獲得したのは「能動免疫」です。これは禰豆子が自ら免疫抗体を作るので、獲得した免疫能は長年持続するのが特徴です。
炭治郎の場合は、禰豆子の血液から得た「受動免疫」です。
こちらは禰豆子の抗体を利用しているだけなので、炭治郎自身は抗体を作っていません。なので、抗体を得てすぐに免疫能を発揮するものの、持続性は期待できないのが特徴です。
陽の光に滅びようとするとき、無惨様は血と力を全て炭治郎に注ぎ込んでいましたが、炭治郎は大丈夫なんでしょうか?
炭治郎が人間に戻っても描かれる「老化」
これも原作を見ていくと、しっかり描かれていますよ。
こっちの手、お爺ちゃんみたいに、しわしわになっちゃったね。
元々無くしてるものだしなあ、こっちの目も形が整ってるだけで機能してないし。
(第23巻 204話)
炭治郎の左腕と右目は、どちらも鬼化する前の、無惨戦のときに失った部分です。
「お爺ちゃんみたいに、しわしわ」という言葉で思い浮かぶのは、珠世さんの「老化の薬」の影響ですよね。つまり、珠世さんの薬が効いた無惨様の細胞の働きで再生されたと考えることができそうです。
「無惨は時間さえあれば薬を全て分解できる」(ファンブック第二弾 120頁)ということなので、老化した状態が続いているのであれば、無惨様の細胞が残っていたとしても、本来の活動ができていないということになります。
でももし無惨様の細胞が生き残っていたとしても、炭治郎の体にはしばらく禰豆子の抗体があったので、結局は殲滅されているはず。弱った細胞なら、なおさらですよね。
しわしわの状態は、無惨様の細胞で再生されていたとしても、決戦後は抜け殻のような状態といえそうです。
結論:太陽を克服するためには、無惨様の細胞は邪魔(汗)
愈史郎が「しのぶの薬と禰豆子、もしどちらか欠けていたら、お前は人間に戻れなかっただろう」(第23巻 204話)というセリフにもヒントが隠れています。
炭治郎に投与されたのが、しのぶさんの薬だけだったとしたら、薬で一度は人間に戻っても、無惨様の細胞が残るので、すぐさま鬼になってしまいます。しかも太陽に弱いほうの。
そして、もし禰豆子の抗体だけだったとしたら、無惨様を滅することはできても、太陽を克服した直後の禰豆子のように、太陽に強くても鬼のままということになります。
こうしてみると、無惨様が無惨様の細胞である限り、太陽の克服はどうにもならない願いだった可能性が高そうですね。
1000年以上も太陽の克服を願って止まなかった無惨様ですが、そう考えると、少々気の毒な星回りの人と言えそうです。
でも、そもそも無惨様は、どうしてそこまで太陽の克服にこだわったんでしょう。
この点に注目して無惨様を見ていくと、ちょっと面白い特徴が見えてきますよ。よかったらこちらの記事も覗いてみてくださいね。