太陽克服のなぜ、炭治郎が受け継ぐ火の要素を考察してみた

葵祭のイメージ

Tanjirou’s mother’s name seems to be related to the Aoi Matsuri Festival.
炭治郎のお母さんの名前は葵祭に関係していそうです。

The origin of the Aoi Matsuri is a festival to worship the god of water. And it was the Tokugawa family who revived the Aoi Matsuri, which had ceased to exist after the Onin War.
葵祭の原点は、水の神を祭るお祭りです。そして、応仁の乱以降、途絶えていた葵祭を再興したのは徳川家でした。

Ieyasu Tokugawa welcomed the spirit of a branch of the Atago Shrine in Kyoto and founded the Atago Shrine in Tokyo. Atago Shrine is dedicated to the god of fire.
徳川家康は京都の愛宕神社の分霊を迎え、東京の愛宕神社を創建しています。愛宕神社は火の神様を祀っています。

(この記事は、第1巻、第2巻、第5巻、第7巻、第11巻、第13巻、第20巻、第21巻、第22巻、ファンブック第二弾のネタバレを含みます)

禰豆子が太陽を克服するまでを見ていくと、山の神や月の神のイメージがいくつも描かれていました。

禰豆子についての考察は別記事にまとめているので、よかったらこちらも覗いてみてくださいね。

では、同じように太陽を克服した炭治郎の場合はどうでしょう。禰豆子のように山の神や月の神のイメージが描かれている場面はあるのでしょうか?

この記事では、炭治郎について考えてみました。

炭十郎さんが表すもの

炭治郎について見ていくと、お父さんやお母さんはけっこう重要な描かれ方をしていて、その名前が登場するのも意外と早くて第2巻 9話に出てきます。

鋼鐵塚さんが炭治郎に日輪刀を持ってやって来たシーンですね。この場面は炭治郎のことを「赫灼の子」と言う大切な場面でもあります。

ユーモラスなやり取りが展開するので、うっかりそのまま見過ごしてしまいそうになるのですが、名前に使われている漢字をよく見ると、ちょっと興味深い意味が見えてきますよ。

角川 漢和中辞典によると、「炭」は燃え切らないで残ったものや、火にかえるものということで、代々ヒノカミ神楽を受け継いできた竈門家にぴったりの漢字でした。

そして、炭十郎さんの「十」は「指事」という種類の漢字になります。

「指事」は点画の組み合わせなどによって、位置や数量などの抽象的な意味を直接に表す文字で、十は「たての一線で基数の完成する数」を示しているそう。「とお」「とたび」「十回」といった、数字の10を表す他に、完全とか完璧の意味があるようです。

4. まったい、完全である
5. 全部。いっさい。

第22巻 192話に出てくる炭治郎のモノローグでは、日の呼吸に関して、「(ヒノカミ神楽の)十二個の型は驚くほど正確に伝わっていました」と書かれているのですが、炭治郎のお父さんの名前は、まるでそのことを表しているかのようですね。

葵枝さんが表すもの

お母さんの名前にも特徴があります。「葵」も「枝」も京都の葵祭をイメージさせます。祭では葵を桂の枝に絡ませた葵鬘(あおいかずら)の装飾が使われますもんね。

葵祭はもともと「賀茂祭」(かもさい、かもまつり)とか、単に「祭り」と呼ばれていた行事で、欽明天皇28年(567年)を起源とする古い歴史があります。

参考 葵祭について, 名前の由来を知りたい | レファレンス協同データベース

シンプルな名前のわりに重要度は高く、恒例祭祀に準じて行う国家的な行事でしたが、大きな戦乱となった応仁の乱以降は一時途絶えていました。

再興されたのは元禄7年(1694年)徳川綱吉の時代で、徳川幕府の援助によってです。

このためか、勅使や祭りの奉仕者の衣類、牛車、牛馬にいたるまで、葵の葉を飾り付けるようになり、この頃から祭りも「葵祭」と呼ばれるようになったとされています。

三大愛宕の一つ、東京の愛宕神社を京都から勧進したのは徳川家康であることを考えると、「葵枝」さんの名前は葵祭や賀茂神社を通して、愛宕神社にも縁のある名前と言えそうですね。

愛宕神社は、炭治郎、善逸、伊之助のイメージが多数見つかった神社でした。

ちなみに、葵祭の起源は水を司る鴨の神の怒りを静めるために行われたもので、葵祭を取り仕切る賀茂氏は、鴨川の上流を拠点に京都の水を支配する一族。代々上賀茂神社と下鴨神社の祢宜を務め、土御門氏と同じく陰陽寮も任される家柄でした。

徳川家と賀茂神社(上賀茂神社・下鴨神社)の関係は家紋にもあって、賀茂神社の神紋に使われる「二葉葵」(賀茂葵)は、徳川家の家紋にもつながっているという話があります。

徳川家の家臣で古株の本多家の家紋は「立葵の紋」でした。これは本多家のご先祖様、中務光秀(なかつかさ みつひで)が賀茂神社の社職だったことが関係するようです。

享禄2年(1529年)に吉田城を攻め落とし、田原城を降伏させたことで祝宴の席が開かれるのですが、この時に功績をあげた本多正忠(ほんだ まさただ)の家紋「立葵の紋」が松平家の家紋と定められ、徳川家康の代になると「三つ葉葵の紋」になったことが「藩翰譜」(新井白石著)に伝えられています。

参考 「藩翰譜」(新井白石著) | 国立国会図書館デジタルコレクション

こうした家紋の関係もあるからか、徳川家と賀茂神社は祭り復興の前から繋がりがあって、「葵使」(あおいつかい)と呼ばれる使節がつかわされていました。

この使節は1610年から大政奉還される1867年まで続けられています。けっこう深いつながりがあったんですね。

葵使
上賀茂神社の境内に自生している二葉葵を江戸城へ献上する使節です。徳川家康の命により始まりました。神社の古文書によると、大名行列とほぼ同等の待遇があったのだとか。

家康が健在のころは、家康のいる駿府城まで届けられていたようです。

そして、葵鬘に使われる「桂」と「葵」を見てみると、この2つの植物は葉っぱがよく似ていて、桂は天へ向かうのに対し、葵は地表近くに広がることから、桂を「陽」、葵を「陰」の象徴として例えるとされています。陰陽の象徴として祭に使われているんですね。

祭では「陽」を象徴する桂は、神話では月とも関わりがあるようで、「山城国風土記逸文」によると、月読尊(ツクヨミノミコト)が天照大神(アマテラスオオミカミ)の勅を受けて保食神(ウケモチノカミ)の許へおいでになる際、最初に湯津桂の樹(ゆつかつらのき)に依りついてから豊葦原の中つ国(とよあしはらのなかつくに)に降臨されたと伝えられています。

湯津桂(ゆつかつら)は斎つ桂(ゆつかつら)とも書いて、清浄な桂の木のこと。桂の木は、古くから神様が降臨する木と考えられていました。

月に限定されるわけではないけれど、葵祭に使われる桂は月ともご縁のある木と言えそうです。

そういえば、古代中国の伝説では「月桂」が月に生えているという話もありましたね。

これはやはり、月のにおいがしてきそうです(笑)

炭治郎が受け継いでいるもの

改めて炭治郎の成長を振り返ってみると、先祖から伝わるヒノカミ神楽の呼吸を剣技に応用し(第5巻 40話)、鬼に似た痣を出現させ(第11巻 94話)、禰豆子の力を借りて緑壱の赫刀に似た爆血刀(第13巻 113話)を出現させて、最終的には日の呼吸を復活させます。

「燃えさしで、また火にかえるもの、つまりもとは消炭(けしずみ)をいった」と、角川 漢和中辞典で説明されている「炭」が表す意味にも重なるところがあって、「炭治郎」の名前に使われる漢字は絶妙です。

でもこれは自力ではなく、禰豆子や、亡くなった家族からのメッセージ、そして先祖の記憶など、様々な助けを借りて実現しています。

一人の天才の力だけでは成し遂げられなかった無惨討伐を、大正時代では大勢の力を合わせることで成し遂げたという姿にも重なります(ファンブック第二弾 120頁)

そして、炭治郎が先祖から受け継いだものには「耳飾り」と「ヒノカミ神楽」がありますが、これはそれぞれ太陽を象徴していました。

・耳飾り … 縁壱の耳を心配したお母さんが、太陽の神様に願いを込めたもの(第21巻 186話)

・ヒノカミ神楽 … 縁壱が使っていた剣技「日の呼吸」を伝えるもの(第5巻 40話)

ただ、日輪刀の色の変化は少し違います。鋼鐵塚さんが期待していたような鮮やかな赤ではなく、鱗滝さんもあまり見ないという漆黒です(第2巻 9話)

漫画でも、「日輪刀は持ち主によって色が変わり、それぞれの色ごとに特性がある」(第2巻 10話)と説明されているものの、「黒い刃になる者は数が少なすぎて詳細がわからない」とされています。

でもこれは、始まりの呼吸の剣士である縁壱も、同じ黒刀だったことが第13巻 113話で明かされています。「普段は黒曜石のような漆黒」ですが、「戦うときだけ赤くなる」というんですね。

民俗学では村武精一という方が、「南島文化では,赤が男性神で太陽を,黒は女性神で月の表象を持っている」と指摘しています。

参考 色のフォークロア研究における諸前提 小林忠雄 | 国立歴史民俗博物館学術情報リポジトリ

つまり、炭治郎や縁壱の日輪刀は、通常は月の象徴である「黒」ですが、戦うときだけ太陽の象徴である「赤」に変わると考えられるわけですね。

太陽と月の両方のイメージを持つといえば、大日如来を本地仏とし、浅間大菩薩を垂迹とする、富士山の赫夜姫伝説ともイメージが重なりそうです。

垂迹(すいじゃく) … 仏や菩薩が衆生を仏道で救うため、借りに日本の神々の姿となって現れるという考え方。本地仏は、姿を借りる前の本来の仏や菩薩のことをいいます。

それから、ここで「黒曜石」という表現が使われているのも、ちょっと素敵なんですよ。

黒曜石は火山岩の一種ですが、結晶構造やインクルージョン(内包物)が光の干渉を起こすことによって、石の表面下に虹色、金色、銀色といった光彩(シラー効果)が見られるものがあってとても神秘的なのです。

ブログ「離島暮らしと黒曜石(オプシディアン)」さんが紹介するように、石によっては夜空を思わせる黒曜石もあるみたいですよ。

参考 黒曜石のシラー効果のお話 | 離島暮らしと黒曜石(オプシディアン)

角川 漢和中辞典によると、黒曜石の「曜」は「耀く意味の語源(爍 しゃく)」からきた形声文字ということで、字義はこんなふうになります。

1. ひかり。かがやき。ひのひかり(日光)
2. かがやく。ひかる(耀)
3. てる(照)。
4. 日・月・星の総称。

(国訓)よう(えう)。日・月と火・水・木・金・土の五星とを、日に割当てよぶ呼び名。「日曜」「水曜」

ちなみに、「日・月・火・水・木・金・土」の七曜は、毎年、陰陽寮から奏進される天体暦に使われていた言葉で、地上に影響を及ぼす恐れのある、星の運行の異変を占うためのものでした。

ただ実際は、世襲制の悪影響で技術力が低下してしまうことが多く、七曜暦は度々途絶えているのですが、それはともあれ(汗)

「黒曜石」という言葉には、太陽や月だけでなく星々も含む文字が使われていて、「色変わりの刀」と呼ばれる日輪刀の特徴から見ても興味深い表現です。(第1巻 8話)

月の影響を受けるもの ~痣~

しかも縁壱は、「兄との再会」、「うたとの死別」、「兄との対決」といった重要な場面で、夜空に浮かぶ月に痣のような模様が描かれています。

生まれながらに鬼と似た痣を持ち、黒死牟が6つの目を持つことで実現した「透き通る世界」も苦労することなく見えていた特別な存在だったわけですが(第20巻 173話、177話)

月信仰では月と痣は関連があると見られるところから、「鬼舞辻無惨を倒す為に、特別強く造られて生まれてきた」(第21巻 187話)という彼は、もしかすると月の影響を大きく受けていて、その力は鬼と同等か、それ以上だったと考えることができそうです。

そういえば、悲鳴嶼さんもこんなことを言っていましたよね。「鬼とは、人間の形が変貌したもの。鬼にできることは人間にもできる」(第20巻 173話)

図にすると、こんな感じになるでしょうか。

鬼と月の関係

そうすると、青い彼岸花から生まれたとされる無惨様も、その無残様から生まれた鬼たちも、もしかすると月の影響を受けた存在と言えるのかもしれませんね。

彼岸花は季節的には藤と対極にある植物。しかも、「月の誕生日」とされる中秋の季節に咲く花でもあります。

炭治郎も禰豆子とともに痣を出現させ、透き通る世界へ至るのですが、その都度、空に浮かぶ月には痣のような模様が描かれていました。

やはり炭治郎も、月を意識して描かれているのは間違いないようです。

あと、上掲の、鬼と人間の図を描いていて気がついたんですけど、炭治郎の無意識層(第7巻 57話)は青空と水面で構成されていましたよね。

これはどちらも「透き通るような青空」「透き通った水」といった感じで、透き通ることを表現する代表的なものです。そこに暖かく輝く精神の核が、太陽のように浮かんでいたわけで──

これらが、「透き通るものでできた世界に日輪」とするなら、「鬼滅の刃」では普通の人とされる炭治郎も、なかなかすごい要素を持っていると考えることができそうです。

青い彼岸花の記憶

それからファンブックには、炭治郎はお母さんの葵枝さんとともに青い彼岸花の目撃者であることが明かされています(ファンブック第二弾、130頁)

といっても、この記憶は炭治郎の走馬灯の中に現れるだけで(第5巻 39話)、アニメでは描かれていないようだし、原作でも直接関係するシーンが続くわけでもないので、気がつく人だけが気がつくエピソードです。

ただ、炭治郎の「治」には、「ただす」とか「しずめる」という意味があるんですよね。

そんな字を名前に持つ人物が、意識していないとはいえ、全ての混乱の元になった青い彼岸花のことを、「記憶」という情報として持っているのは、なんとも不思議な巡り合わせを感じさせるお話です。

【治】
解字:形声。台の古音シが音を表す。もと川の名。また、音が理に通じ、おさめる意に借用し、この意味が広く用いられるようになった。

字義:
1. おさめる(をさ・む)。民をおさめる。おさまる。
2. まつりごと。政治。
3. とり調べる。取り締まる。
4. ただす。しずめる。乱れないようにする。平らげる。
5. なおる(なほ・る)。なおす。病気をなおす。
6. 地方官の役所。また、その役所にいてまつりごとを行うこと。

(角川 漢和中辞典)

そういえば、炭治郎が炭十郎さんの舞うヒノカミ神楽を見ているときも、そばにお母さんの葵枝さんが描かれていました。

お母さんなんだから、子どものそばにいるのは当たり前といえば当たり前ですけど(汗)

記憶として重要な場面に、徳川家にかかわるお祭りを名前に秘めた人物が、まるで道案内をするかのように存在しているのも印象的です。

こうしてみると、山の神や月の神のイメージが繰り返し描かれていた禰豆子と違い、炭治郎は祖先から受け継いできたヒノカミ(太陽)の要素がかなりしっかり組み立てられたうえで、世代を超えて作用してきた月の影響を受けていることが窺えます。

では、こうした要素が太陽克服にも影響しているんでしょうか? 別記事では、炭治郎の太陽克服について、鬼化する前後を見直してみました。

当ブログでは、禰豆子の太陽克服に関しても考察した記事があるので、よかったらこちらも覗いてみてくださいね。

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