2011年から小学校に英語が本格的に導入することが決まって、何となく気になるのが「英語はいつから勉強すればいいのか」ですよね。
動物の発達には「臨界期」というキーワードがあるようです。ちょっと簡単に調べてみました。
臨界期って何?
動物の行動学から生まれた言葉で、脳の働きや経験、学習によって、脳の働きが変わりやすい時期があります。これを「臨界期」とか「感受性期」と呼びます。
有名なのはガンをはじめとする鳥類の刷り込みですよね。ティンバーゲンらとともにノーベル賞を受賞したローレンツ博士の研究では、孵化直後のヒナ鳥が、目の前で動く対象物をずっと追いかける行動を取るというものです。
近年、こうした動物実験の結果は人にも当てはまるのか? という話があり、早期教育の重要性が語られる根拠になっていたりします。
哺乳類の場合は感受性期
鳥類に起こる刷り込み行動は、孵化直後約8時間から24時間の間で、その後は起きないものなので、この期間を指して「臨界期」と呼びます。
哺乳類の臨界期と呼べるものは、子ネコの片眼遮蔽実験で確認されています。
子ネコの片目眼を一時的に遮って、大脳視覚野の神経細胞が左右どちらの眼の光りによく反応するか調べるというものですが、この結果、遮っていた眼は光に反応しなくなっていて、物を見ることもできなくなっていることが確認されました。
ただ、この変化は鳥類の刷り込みと違い、生後3~4週ごろに起こりやすく、生後15週を過ぎると起こらないという特徴が確認されています。
このように、哺乳類の場合、変化が起きる期間は長く、しかも終わり方がゆっくりで急に消えるというわけではないので、「感受性期」と呼ぶ場合が多いようです。
言語分野での感受性期
母語(最初に習い覚える言語)を習得するときの言語刺激にも、この臨界期はあるようです。
アヴェロンの野性児や幼児のネグレクトなど、言語的な刺激から隔離されて成長した子どもの事例や、言語中枢を含む脳の切除手術を受けた子どもなどの事例から、経験的な結果として言われることですが、言語分野での臨界期は「だいたい12歳ごろまで」とされています。
でも、だからといって、単純に「早い時期から勉強を始めればいい」というわけでもないみたいですよ。
というのも、戦略的想像研究推進事業の研究チームでは、運動性言語中枢「ブローカー野」に文法処理に関連した活動域「文法中枢」があることを確認しているのですが、このチームの研究によると、言語中枢の活性から見ると、英語学習を「いつ始めたのか」より「どれほど長く続けたか」が重要な要素になることが指摘されているからです。
勉強を始める時期によって習得の度合いに大きな差はなく、どちらも長期間(6年くらい)勉強すると、同じ変化が文法中枢に起きるというんですね。
この話は、「英語の文法力については」という但し書きがあるみたいですが(汗)英語力に注目すると、「継続すること」は英語習得にとって重要なポイントになるみたいです。
もちろん、小学校から学習を始めれば、その分学習期間が長くなるので、その点では早期教育は有利と言えるかもしれませんが、「スタート地点で差はない」というのは、年齢を重ねてから語学学習にチャレンジする人にとって朗報ですよね。
脳の発達には多様性が大切
とはいえ、早めにスタートすればその分長く続けることになるので、やはり早期の教育が大切になってくるのでしょうか? でも、脳の発達からいうと、これも注意が必要みたいです。
こうした臨界期の研究では、物を見る視覚系や母語に関する言語の習得といった限られた分野に偏っていて、脳の機能全体のことはほとんどわかっていないのが現実です。
それだけに、子どもの脳の発達を考えるなら、「偏ることなく多様な機能を使うように環境を整える」ことが大切になってきます。
そのことは、前述した子ネコの実験でも確認されています。
縦縞しか見えない環境で子ネコを飼育すると、縦縞によく反応する神経細胞が増える代わりに横縞に反応する神経細胞が減ってしまうのだとか。つまり、感受性期には、活動しないシナプスは脱落してしまうというわけです。
このような環境で育ったネコは、横縞の視力が悪くなってしまいます。
こうしたことからも、早期教育を重視するあまり偏った環境にならないよう周囲の配慮が必要と言えるようです。
参考書籍 ソロモンの指輪 コンラート・ローレンツ(ハヤカワ書房)
参考書籍 脳と発達 津本忠治(朝倉書店)