善逸はどの辺が強いのか? 無意識領域と羽織の柄でわかること

マハーカーラのイメージ

The unconscious area of Zenitsu is reminiscent of Daikokuten.
善逸の無意識領域は、大黒天をイメージさせます。

The secret of the strength of Zenitsu seems to be hidden in his original Form “Honoikazuti no Kami”.
善逸の強さの秘密は、彼のオリジナルの技「火雷神」にヒントが隠れていそうです。

(この記事は、第4巻、第6巻、第7巻、第15巻、第17巻、第22巻のネタバレを含みます)

善逸の臆病なところと耳のよさは、ネズミの特徴が重なるキャラクターでした。別記事にまとめているので、ネズミについてはこちらの記事を覗いてみてくださいね。

でも、臆病なのに、善逸の育手の桑島師範は「お前には才能が(ある)」と言っているようです。(第4巻 33話)

炭治郎も善逸の匂いから「優しいのも、強いのも(最初からわかっていた)」と言っているし(第4巻 27話)、見る人が見れば「善逸は強い」ということが最初からわかるみたいですね。

では、善逸の強さって、どの辺にあるのでしょう?

大黒天と善逸

古事記でネズミというと、大国主命(オオクニヌシノミコト)の使いとして有名です。

大国主命は、古事記では最初、大穴牟遅神(オオナムチノカミ)と名乗っていて、途中から大国主命に変わります。

名前が変わったのは、須佐男命にそう言われたから

大穴牟遅神は、兄弟神である八十神(ヤソカミ)からの迫害を避けて、6代前の先祖である須佐男命(スサノオノミコト)のいる根之堅州国(ねのかたすくに)に逃げ込みます。

そこで出会った須佐男命の娘、須勢理毘売(スセリビメ)に一目惚れ。須佐男命の出す数々の難題を須勢理毘売の力添えでクリアしていくところは有名な話ですよね。

須佐男命も「なかなかやるじゃないか」、「言うこともきくし、かわいいところもあるじゃないか」と油断して、うたた寝をしてしまいます。

その間に、大穴牟遅神は須佐男命の秘蔵する宝、「生太刀」(いくたち)と「生弓矢」(いくゆみや)と「天詔琴」(あめののりごと)を持って、須勢理毘売を背負うと地上界へ逃げていくのです。

逃げる途中、天詔琴が木に触れて大きな音をたてたので、気がついた須佐之男命も後を追いかけてくるのですが、追いつくのは無理だと諦め、遠く逃げていく大穴牟遅神にこんなふうに呼びかけます。

「其汝所持之生大刀生弓矢以而 汝庶兄弟者 追伏坂之御尾 亦追撥河之瀬而 意礼[二字以音]為大國主神 亦為宇都志國主神而 其我之女湏世理毗賣為適妻而 於宇迦能山[三字以音]之山本 於底津石根宮柱布刀斯理[此四字以音]於髙天原氷③椽多迦斯理[此四字以音]而、居。是奴也。

「其の汝(な)が持てる生大刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)とを以て、汝(な)が庶兄弟(ままあにおと)を坂の御尾(みを)に追ひ伏せ、亦(また)河の瀬に追ひ撥(はら)ひて意礼(おれ)、大国主神(おおくにぬしのかみ)となり、亦(また)宇都志国主神(うつしくにのかみ)となりて、其の我が女(むすめ)湏世理毗売(すせりひめ)を適妻(むかひめ)として、宇迦能山(うかのやま)の山本に、底つ石根(そこついはね)に宮柱(みやばしら)ふとしり、高天原に氷椽(ひぎ)たかしりて、居れ。是の奴(このやつこ)や」といひき。

そのお前が持っている生太刀と生弓矢とを使って、お前の異母兄弟たちを坂の裾に追い伏せ、河の瀬の向こうに追い払って、おのれは大国主神となり、また宇都志国主神となって、そこにいる我が娘を正式な后とし、宇迦の山の麓に、地の底の根の堅州国にある岩盤に宮殿の柱を太く立て、高天原に届くまでに千木を高くそびえさせて居住せよ。こいつめ」と言いました。

「こいつめ」と言われつつ名前を変える大穴牟遅神エピソードは、蝶屋敷の特訓でなかなかカナヲに勝つことができず、伊之助に名前を間違えられても「改名しようかな、もう紋逸にさ…」(第6巻 49話)と言っていた善逸を思い出しますよね(笑)

須佐男命が目を覚ましてしまうほど大きな音をたてる「天詔琴」も、雷の呼吸の使い手である善逸にぴったりです。

須佐男命がつけてくれた「大国主神」は国土を代表し、領有する神を意味します。そして、「宇都志国主神」は現実の地上世界を代表し、領有する神の意味です。

さらに武でもって八十神を追い払うのですから、これだけでも十分強そうですが、神仏習合が進む平安時代になると、仏教の大黒天とも集合して、甲冑をつけた武装像が大きな袋を持った姿で表現されるようになります。

大国主命と習合した大黒天は、戦闘神であり冥府の神様

大国主に集合する前の大黒天はどんな神様だったのかというと、密教とともに日本にやってきたマハーカーラ(摩訶迦羅)で、戦闘神であり財福神、なおかつ冥府の神でもあるという少し怖い顔を持つ神様でした。

マハーは「偉大さ」を意味し、カーラは「暗黒」や「時間」を意味します。

参考 マハーカーラ論 | 青面金剛進化論

チベット仏教では、マハーカーラは75種類もあるようですが、そのうちの一つが、記事の最初に掲載したような三面六臂の姿をしています。

右手に小さな人間の髪をつかんで持ち、左手にヤギの角をつかみ、後ろの両手で白象の皮を被るように広げている、とても奇妙な姿です。

実は描かれているのは全てヒンドゥー教の神様の姿で、小さな人間はシヴァ神、ヤギはシヴァ神の乗り物でもある白牛、白象はシヴァ神の子どもであるガネーシャを表しています。

中国や日本では、白牛がヤギやウサギに変えられて伝わったと考えられているみたいですよ。

つまり、仏教の神様がヒンドゥー教の神様を打倒している姿を表しているわけですね。

そして、青黒い肌の色は、破壊と再生を司るシヴァ神が、世界を最後の帰滅(pralaya)に導く際に変わるとされる「大いなる暗黒の神」の姿を引き継いでいるのだそう。

第7巻 57話に出てくる善逸の無意識層は真っ暗ですが、前ページで考察した伊邪那岐命・伊耶那美命(イザナギ・イザナミ)の黄泉の国訪問の他に、大黒天の「大いなる暗黒」のイメージにも重ねることができそうです。

この他、大黒天は人を食らう荼枳尼天(ダキニテン)を懲らしめるため、大日如来が変じた姿ともされていて、胎蔵界曼荼羅(たいぞうかいまんだら)では、三面六臂に忿怒の相を持ち、手には剣、首には髑髏をかけた姿で描かれていて、隠形(おんぎょう)・飛行の術にたけているとされています。

「人間の生血を取る」などとも言われていて、人の肉を切り取るハサミ(剪刀)や髑髏杯を持った姿で描かれたりするようですよ。

参考 レファレンス事例詳細(Detail of reference example) | レファレンス協同データベース

確かに、善逸の無意識層には、大きなハサミのようなものを持った善逸本人がいましたね(汗)

「善逸」の「逸」は、姿を隠す意味もある

そして、「隠形」というのは、呪術を使って自分の姿を隠して見えなくすることです。「姿を隠す」というと、愈史郎の血鬼術で姿を隠しながら無惨戦に参戦する善逸の姿が重なります(第22巻 189話)

でも、善逸の名前をよく見ると、「逸」の字にも「かくれる」という意味がありました。「角川 漢和中辞典」によると、「逸」の字義はこんな感じで紹介されています。

1. はしる。にげる「奔逸」
2. はなつ。にがしてやる。
3. かくれる。
4. 世間から隠れて知られない人。隠君子。
5. ぬける。はなれる。それる。
6. うしなう(・ふ)。なくなる。「散逸」
7. はやる。心がはずむ。いさむ。
8. ほしいまま。わがまま。「放逸」
9. あやまつ。あやまる。あやまち。
10. すぐれる。まさる。
11. やすらかにたのしむ。きらく。「安逸」
12. みだら。「淫逸」
13. ゆるやか。「蕩逸」
14. はやい。「逸足」

蝶屋敷で那田蜘蛛山の傷を癒やしていた際、「身を隠して盗み食いしていた」善逸が出てきますが(第6巻 50話末)、あれも「逸」の文字に則った行動だったんですね(笑)

名前に使われている漢字も、善逸にぴったりの絶妙な文字が選ばれているようで、大黒天と重なるイメージがあります。

火雷神(ほのいかづちのかみ)と善逸

それから、善逸が使う雷の呼吸から見ても、興味深い要素があります。

雷の呼吸 漆ノ型(しちのかた)は、善逸オリジナルの「火雷神」(ほのいかづちのかみ)でした。(第17巻 145話)

黄泉国の暗闇に隠れた伊耶那美命(イザナミノミコト)の体には、八雷神(ヤクサイカヅチノカミ)が生じていましたが、このうちの一柱に善逸の技と同じ名前の神様がいるのです。

大雷神:オオイカヅチノカミ(頭) … 盛んな雷の威力を示す
火雷神:ホノイカヅチノカミ(胸) … 雷が起こす火を示す ←この神様
黒雷神:クロイカヅチノカミ(腹) … 雷雲が天地を暗くすることを示す
折雷神:サクイカヅチノカミ(陰) … 落雷の引き裂く威力を示す
若雷神:ワキイカヅチノカミ(左手) … 現れたばかりの若々しい活力を示す
土雷神:ツチイカヅチノカミ(右手) … 雷が地上に戻る姿を示す
鳴雷神:ナルイカヅチノカミ(左足) … 雷鳴が鳴り響くことを示す
伏雷神:フシイカヅチノカミ(右足) … 雷が隠れ潜む姿を示す

八雷神の中でも「火」に関わる神様が選ばれているんですね。

ちなみに、京都の愛宕神社の若宮社では、迦遇槌命 (カグツチノミコト)や破无神 (ハムシノカミ)とともに八雷神が祀られていて、若宮社のさらに奥にある奥宮社には、大国主命が祀られています。

愛宕神社は炭治郎や鬼滅の刃 と重なるイメージがいくつも見つかった神社ですが、大国主命と火雷神は、どちらも愛宕神社にご縁のある神様になるようです。

竜蛇(りゅうじゃ)と善逸

それから雷に関しては、中国の雷神信仰の影響で、日本でも雷神を龍や蛇と関連づけて考えることがあるのも興味深いところです。

これは古事記に描かれる八雷神も同じみたいですよ。

伊耶那美命の体から生じた八雷神は、体の左側には「地上に現れて活発に活動する雷(龍)」が、体の右側には「活動を弱めて隠れ潜む雷(龍)」が表されていました。

陰陽五行では左が「陽」で右が「陰」になります。

これは、「論語」に出てくる「天子南面」という言葉が参考になります。

天から統治を許された天子は、北極を背に南へ向かって統治をすると考えられているので、南を向いて日の昇る東が「陽」、日の沈む西が「陰」になります。つまり、左が「陽」で右が「陰」になるわけですね。

そして、雷が盛衰を繰り返すのは、後漢(西暦100年)の時代に許慎(きょしん)が成した部首別漢字字典「説文解字」の説明が参考になります。

龍は鱗虫の中の長なり、能く幽かに、能く明らかに、能く細に、能く巨に、能く短に、能く長なり、春分にして天に登り、秋分にして淵に潜む。

龍は鱗を持つ生き物の中の長である。おぼろげでもあり、明瞭でもあり、細くもあり、巨大でもあり、短くもあり、長くもある。春分には天に昇り、秋分には淵に降りてきて潜む。

春分といえば、太陽の活力が増していく季節の始まり。反対に、秋分は冬に向かって太陽の活力が弱まっていく季節の始まりになります。

太陽の活動と龍(雷)の活動が連動しているんですね。

これは、気象の動きや動植物の節目を示す「七十二候」(しちじゅうにこう)や季語にも取り入れられています。

【季語】
・龍天に登る(春)
・龍淵に潜む(秋)

【七十二候】
・雷乃発声(かみなり すなわち こえをはっす) (3月21日から4月4日頃)
・雷乃収声 (かみなり すなわち こえをおさむ) (9月23日から9月27日頃)

善逸が着ている羽織は桑島師範の着物と同じ、龍や蛇、魚の鱗などを現す鱗紋の柄で、これは師範から善逸に贈られたものでした(第17巻 144話末)

雷の呼吸は雷の威力を取り入れた技になるようですが、羽織の模様で龍蛇も表現されているところは興味深いですよね。

善逸が雷の呼吸を使って力を発揮するとき、その直前に眠った状態になるところも、龍や雷が威力を表す前に、一旦、淵や地面に姿を隠す様子を思わせます。

こうしてみると、大黒天、火雷神、雷に由来する龍蛇と、善逸はかなり強そうな要素が揃ったキャラクターと言えるようです。

無限列車では魘夢の罠にかかりながらも、自分の精神の核を護り、眠ったままでも禰豆子と乗客を守ることができたのは、やはり只者ではなかったからなのかもしれません。

ちなみに古代中国の大黒天は、頭に烏帽子をかぶり、裾の短い着物を着て、左手に大きな袋を持って肩にかけ、右手は拳をつくって腰に当てた姿になって、厨房に祀られるようになります。

高野山の寺院でも、厨房に大黒天が祀られているそうですよ。日本ではこのイメージで、七福神の一尊として加えられたようです。

打ち出の小槌を手に持って俵の上に立ち、肩に大きな袋を背負い、頭に頭巾をかぶった福々しい笑顔をした姿はお馴染みです。

機嫌を直した時の善逸の顔に、ちょっと似てるかもしれませんね。(第15巻130話)

このブログには、善逸の羽織の柄について調べてみた記事もあります。このときはまだ第4巻までしか読んでなくて、歌舞伎に出てくる鱗紋でしか見てなかったんですけど(汗)

龍について、もう少し書いているので、よかったらこちらも覗いてみてくださいね。

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