善逸と宇髄さんは永遠のライバル? ネズミから見える善逸の姿

ハツカネズミのイメージ

In the dream that Inosuke and Rengoku dream of on the infinite train, Zenitsu with the characteristics of a mouse appears.
無限列車で伊之助と煉獄さんが見る夢には、ネズミの特徴を持った善逸が登場します。

I think this is a great hint for us to know more about Zenitsu.
善逸のことを知るための、大きなヒントになっていると思います。

(この記事は、第3巻、第4巻、第7巻、第9巻、第17巻のネタバレを含みます)
 

禰豆子は炭治郎と同じ火之迦具土(ホノカグツチ)と重なるところがありますが、山の神を象徴するウサギのイメージも重なるキャラクターでした。

詳しくは、こちらの記事も覗いてみてくださいね。

では、善逸もウサギでしょうか? 耳がいいし、臆病なところもそれっぽいですよね。ウサギなら禰豆子と一緒でラブラブです(笑)

でも、第7巻 54話に出てくる煉獄さんの夢の中では、出っ歯の姿で現れます。55話に出てくる伊之助の夢の中でも、ネズミの「チュウ逸」として現れます。しかも54話末のイラストには、「共通の認識、善逸は出っ歯」と、出っ歯であることが念入りに繰り返されています。

わかりました、善逸は出っ歯のネズミなんですね(汗)

でも、どうしてネズミなんでしょう?

ネズミがつなぐ大国主神と善逸の関係

神仏には「使わしめ」と呼ばれる動物がいます。眷属(けんぞく)とか神使(しんし)とも呼ばれるもので、その神様と関わりのある物語を持っていることが多いようです。

日本神話でネズミといえば、大きな袋を肩にかけ、打ち出の小槌を手に持った大国主命です。後に七福神の一尊である大黒天と習合して、大黒様と呼ばれるようになります。

「古事記」では、最初は大穴牟遅神(オオナムチノカミ)という名前で登場して、後に大国主神(オオクニヌシノカミ)と名乗るようになります。

そう思って大国主神の伝説を読み直すと、様々な場面に善逸の姿が見えてきますよ。

稲羽の素兎と善逸

大穴牟遅神には、兄弟神である八十神(ヤソガミ)たちがいました。

八(や)は数や量の多いことを表したり、幾重にも重なっていることを表す言葉なので、数え切れないほど多くの異母兄弟の神々がいたということになります。

事の始まりは、この神々がすべて大穴牟遅神に国を譲って身を引いたことでした。

といっても、これは大穴牟遅神を敬っての行動ではなく、稲羽(因幡)にいらっしゃる八上比売(ヤカミヒメ)と結婚したいと思ったから。結婚の申込みに皆で一緒に稲羽へ向かうのですが、大穴牟遅神には荷物を背負わせて、従者として兄弟神の後についてこさせます。

この道中で一行は、毛をむしり取られた裸のウサギが泣いているのに出会うのですが、これが稲羽の素兎(いなばのしろうさぎ)です。

鰐(わに)を騙して淤岐ノ島(おきのしま)から気多の岬(けたのみさき)へ渡ろうとしたところ、最後の最後に計略がうまくいったことを自慢したために捕まえられて、仕返しに毛をむしり取られてしまったんですね。

先に兎と出会った八十神たちは、「海水を浴びて、風に当たって寝ておれ」と嘘を教えたため、兎はさらにひどい状態になって泣いているところを大穴牟遅神が遅れてやってきます。

事情を聞いた大穴牟遅神は正しい対処法を教えてやったので、兎の身体は元通りに戻ることができたのでした。兎と大穴牟遅神は、こんなご縁があるんですね。

そして「古事記」では、この兎は今では兎神(ウサギガミ)と言われていると紹介しています。ただの兎ではないようです。

そして兎は、こんな予言をするのでした。

 

故 其菟白大穴牟遅神 此八十神者 必不得八上比賣雖負帒汝命獲之

故(かれ)、其の兎(そのうさぎ)、大穴牟遅神に白(まを)ししく、「此の八十神は必ず八上比売を得じ。袋を負せども、汝(な)が命(みこと)獲(え)む」

さて、そのウサギが大穴牟遅神に申し上げたことには、「あの八十神は、きっと八上比売を得ることはできないでしょう。袋を背負われていても、貴方様が獲得なさるでしょう」。

 

兎の言うとおり、八上比売は「大穴牟遅神と結婚します」と言って、八十神の求婚はすべて断ってしまうのでした。

伊之助の夢の中にウサギの姿で表れる禰豆子(第7巻 55話)が稲羽の素兎に重なるとするなら、兎を助ける大穴牟遅神は、対魘夢で禰豆子を守る善逸の姿に重なりそう。(第7巻 60話)

そして意地悪な八十神は、善逸に桃をぶつけてきた兄弟子ということになりそうですね。(第4巻 34話)

桑島師範が伝える雷の呼吸の継承権問題で、「0」か「1」しかないという極端な選択にこだわるところは、まだ求婚をしてもいないのに大穴牟遅神に国を譲ってしまう八十神たちと、どこか重なるところがありそうです。(第17巻 144話)

八十神の迫害と善逸

こうした事があって、八十神たちは怒りを募らせ、大穴牟遅神を殺そうと相談するのでした。そして、大穴牟遅神を連れてやって来たのが、伯耆国の手間山(現 鳥取県西部の手間要害山)の麓です。

 

而至伯岐國之手間山本云 赤猪在此山故和禮 [此二字以音] 共追下者 汝待取若不待取者 必将殺汝云 而以火焼似猪大石 而轉落尒追下取時 即於其石所焼著而死。

而(しかるに) 伯伎の国(ほうきのくに)之(の)手間(てま)の山(やま)の本(もと)に至りて云はく、「赤猪(あかきゐ)此(こ)の山に在(あ)り。故(ゆえ)、われ共(とも)に追ひ下(くだ)さば、汝(なれ)待ちて取れ。若(も)し待ち取らずば、必ず将(まさ)に汝(いまし)を殺さむ」と云ひて、火を以(もち)て猪に似たる大石(おおいは)を焼きて転(まろ)ばし落としき。

尒して(しかして)、追ひ下すを取る時に、即(すなは)ち其(そ)の石(いは)に焼かるる所(ところ)著(いちじる)しくて而(しかるに)死にき。

そして、伯伎の国の手間山の麓に連れて来て言いました。「赤い猪がこの山にいるので、我々が追い落としたら、お前は待ち構えて捕えろ。もし捕らえなければ必ずお前を殺すだろう」そう言って、猪に似た大きな石を火で焼いて転がし落としました。

大勢の神が追い落とした石を捕えたとき、たちまちその石にひどく焼かれ、死んでしまいました。

 

このときは母・刺国若比売(さしくにわかひめ)が天に参上して神産巣日之命(カンムスビノミコト)に請うたので、(舌刂の下に虫)貝比売(サキガヒヒメ)と蛤貝比売(ウムガヒヒメ)が遣わされて復活することができます。

しかし、再び殺されてしまいます。

 

於是八十神見 且欺率入山而 切伏大樹 茹矢打立其木 令入其中即 打離其氷目矢而拷殺也。

於是(これにおいて)八十神(ヤソガミ)見、また欺き山に率入(ゐい)りて、大樹(おほき)を切り伏せ、矢を茹(は)めて其の木を打ち立て、其の中に入らしむる即ち、其の氷目矢(ひめや)を打ち離ちて拷(うち)殺しき。

これを見た八十神は、またあざむいて山に連れて入り、大きな樹を切り倒し、矢をはめ、その樹を立てて、隙間の中に入らせるやいなやくさびを打ち放って打ち殺してしまいました。

 

このエピソードは、兄弟子に冷たい対応をされていた善逸と、どこか重なるところがあります。(第4巻 34話)

ただ一つ違うところは、(舌刂の下に虫)貝比売(サキガヒヒメ)と蛤貝比売(ウムガヒヒメ)によって復活した大穴牟遅神は、麗はしき壮夫(うるわしきおとこ)となって復活するところ。

煉獄さんや伊之助の夢に出てきた善逸は、「見目麗しい」という言葉はちょっと合いそうにありません。これはどういうことでしょう?

話はもう少し続くので、もう少し見ていきましょう。

根之堅州国の受難で見えてくる人物

大穴牟遅神は災難にあうたび母神に見つけ出され、母神の力や母神の願いにこたえた神々によって、その生命が救われるのですが、このままでは八十神のために滅ぼされてしまうということで、木国の大屋毗古神(オホヤビコノカミ)に預けられます。

でも、そこにも八十神が追いかけてくるので、最後は大穴牟遅神の6代前の先祖である須佐男命(スサノオノミコト)を頼って根之堅州国(ねのかたすくに)へ逃げ込みます。

このとき、大穴牟遅神に根之堅州国へ行くようアドバイスをしてくれたのが大屋毗古神です。

「日本書紀」に出てくる素盞鳴尊(スサノオノミコト)の子・五十猛命(イタケルノミコト)と同一神と見られる神様で、「鬼滅の刃」の物語を理解するうえでも鍵となりそうな神様です。

よかったら、こちらの記事も覗いてみてくださいね。

 

 

善逸と宇髄さんと大国主神

こうして逃げ込んだ根之堅州国で、大穴牟遅神は須佐男命の娘である須勢理毗売(スセリビメ)と出会い、二人はともに一目惚れ。夫婦になる約束を交わすのでした…。

待て待て、八上比売はどうなる? という怒涛の展開ですが、実は大穴牟遅神はこの他にも、沼河比売(ヌナカハヒメ)、多紀理毗売命(タキリビメノミコト)、神屋楯比売命(カムヤタテヒメノミコト)、活玉依毗売(イクタマヨリビメ)などなど、多数の奥さんがいるのです。

一夫多妻の神様なんですね(汗)

女の子に弱いところは大穴牟遅神と善逸はそっくり。そして麗はしき壮夫(をとこ)で、奥さんが複数いるところは、イケメンの宇髄さんとそっくり。

二人は、ともに大穴牟遅神のイメージが重なるようです。

善逸が宇髄さんに反発しまくるのは、もしかして重なるイメージが似た者同士なところに原因があったりするのかもしれません。(第9巻 71話)

善逸と宇髄さんに見えるネズミの姿

根の堅州国にやってきた大穴牟遅神は、須佐男命から様々な試練を与えられるのですが、その度に須勢理毗売の協力でその試練を乗り越えていきます。

でも、いよいよ窮地に陥るのが、広い野原に放った鏑矢を拾ってくるよう命じられたときです。周囲に火を放たれたため、逃げ場を失ってしまうのです。

このとき、大穴牟遅神の危機を救ってくれるのが鼠(ねずみ)です。

 

亦鳴鏑射入大野之中 令採其矢 故入其野時 即以火廻焼其野 於是不知所出之間 鼠來云内者冨良冨良 [此四字以音] 外湏須夫須夫 [此四字以音] 如此言 故踏其處者 落隠入之間 火者焼過

亦(また)、鳴鏑(なりかぶら)を大野(おほの)に射(い)り入れし中に、其(そ)の矢を採(と)ら令(し)め、故(かれ)、其(そ)の野に入りし時に、即(すなは)ち火を以て其の野を廻(めぐ)り焼きき。於是(ここにおいて)、出でむ所を知らぬ間に、鼠(ねずみ)来て云ひしく、「内は冨良冨良(ほらほら)、外は湏夫湏夫(すぶすぶ)」と如此(かく)言ひき。

故(かれ)其処(そこ)を踏みしか者(ば)、落ちて隠り入る間に、火(ほ)は焼き過ぎぬ。

また今度は鳴鏑が広い野の中に射り入れられ、その矢を取りに行くよう命じられました。そして、その野に入ったとき、たちまち火が放たれて、野の周りを火が廻り焼きました。そのため逃げ場がわからないでいると、ネズミが現れて言うことに、「内はほらほら、外はすぶすぶ」このように言います。

そのため、その場所を踏んだところ、落ちてその中に入って隠れている間に、火は焼け終えてやり過ごすことができました。

 

出っ歯のネズミのイメージがある善逸は、大穴牟遅神を助けたネズミそのもの。

忍獣ムキムキねずみを使いとして使う宇髄さんは、ネズミを神使として使う大国主命そのものですよね。(第9巻 76話)

しかも自分で入り口を作って、地面の中にある大きな穴に入ってくる宇髄さんは、ネズミに教えられて、地面の中にある穴に入って難を逃れる大穴牟遅神のイメージに重なります(第9巻 79話)。

やっぱり善逸と宇髄さんは、大国主命を介したライバルなのかもしれませんね。

ともあれ、こうした神話がもとになって、大国主命の使いはネズミとされています。

善逸の無意識の領域との共通点

諸説ありますが、須佐男命が主宰神である根之堅洲国は、伊耶那美神(イザナミノカミ)が主宰神を務めている黄泉国と同一と見られる世界です。

火の神である迦具土神(カグツチノカミ)を生んだために神避(かむさ)ってしまった伊邪那美神を追って、伊邪那岐命(イザナギノミコト)が黄泉国を訪れたとき、こんな表現が出てきます。

 

莫視我 如此白而 還入其殿内之間 甚久難待 故刺左之御美豆良 [三字以音下效此] 湯津津間櫛之男柱一箇取闕而

「我(あ)をな視たまひそ」如此(かく)白(まを)して、其の殿の内に還り入る間、甚(いと)久しくて待ち難し。故(かれ)、左の御美豆良(みみづら)に刺(さ)せる湯津津間櫛(ゆつつまぐし)の男柱(をばしら)一箇(ひとつ)取り闕(か)きて、一火(ひとつび)燭(とも)して入り見し時に…

「決して私をご覧にならないでください」このように申し上げて、その御殿の内に帰っていきました。その間がとても長くて、待ちきれなくなったので、左の御みずらに刺していた神聖な爪櫛の端の太い歯を一本折り取って、一つ火をともして御殿の内に入って見たところ…

 

伊耶那岐命は、御殿の内の様子を見るために火を灯すのです。つまり、黄泉国の御殿の中は、火を灯さなければならないほど暗いんですね。

第7巻 57話に出てくる善逸の無意識の領域も、「体中に墨汁をぬりたくられてるみたい」と表現されるほど真っ暗でした。まるで黄泉国の御殿を思わせる表現です。

ともあれ、最大の危機を乗り切った大穴牟遅神は、この後、居眠りを始めた須佐男命の隙を見て、須勢理毘売命を背負うと地上界へ向けて逃げ出します。

このとき、遠く逃げ去る大穴牟遅神に向かって、須佐男命は「大国主神(オオクニヌシノカミ)となり、また宇都志国主神(ウツシクニヌシノカミ)となれ」と名付けるのでした。

この姿は、第7巻 55話末の挿絵に描かれている、禰豆子を背負って幸せの跳躍を見せる善逸の姿と重なりそうです。

大国主命は切羽詰まって大変な場面だけど、善逸は幸せいっぱいでよかったですね(笑)

 

ネズミの能力と特徴

善逸はネズミのイメージに重なるとすると、何か共通点はあるのでしょうか?

調べてみると、ネズミの聴覚は意外といいようで、100dBの音圧レベルに対して200Hz〜68,000Hz付近までの可聴範囲があり、なかでも20,000〜50,000Hz帯がもっとも聴力がいいという研究報告があります。

 
参考 “ラットの超音波聴力について,”聴覚研究会資料H-84-44(1984)
 

ウサギの場合、この可聴範囲は360Hz~42,000Hz程度と考えられていて、人間の場合は20Hz~20,000Hzなので、低音部分は人間ほどではないけれど、ウサギより広い可聴範囲を持っている可能性があるみたいです。

性格もドブネズミは獰猛ですが、屋根裏にすむクマネズミは慎重かつ臆病な性格で、倉庫や物置にすむハツカネズミは好奇心旺盛だけど臆病な性格をしていると言われています。

こうしてみると、クマネズミやハツカネズミは、確かに善逸のイメージと重なります。

ちなみに、ネズミにとってよく聞こえるとされる周波数はとても高いだけあって、実際のネズミの鳴き声は「チューチュー」ではなく、「キーッキーッ」とか「キュッ キュッ」といった、金切り声のような高音になるようです。

第3巻 23話に出てくる善逸の叫び声は「汚い高音」と注意書きが入っていたので、この時点からネズミの特徴が表現されているみたいです。

 
雷獣のイメージ
 

そして、ちょっと興味深いのは、ネズミには「雷獣」(らいじゅう)という妖怪がいて、実は雷と縁のある動物だというところ。

雷獣は落雷とともに現れるとされていて、その姿は子犬のようだったり、狸のようだったり、イタチのようだったり、伝えられる地域によってその姿は様々ですが、和歌山県日高郡みなべ町に伝わる口承では、「雷はネズミのせいである」とされています。

参考 南部川の民俗─和歌山県日高郡南部川村旧高城・清川村─ 東洋大学民俗研究会

善逸は修業時代、鍛錬から逃亡するために木に登っていたところを雷に打たれています。雷獣とネズミの関係を考えると、これも興味深いエピソードですよね(第4巻 33話)

以上、善逸の臆病なところと耳のよさは、伊之助の夢に出てくるように、大国主命の使いであるネズミと特徴が重なっていそうです。では、善逸の強さってどこにあるのでしょう?

調べてみると、善逸の真っ暗な無意識の領域は、大国主命のもう一つの顔とも重なっているみたいですよ。

長くなるので、善逸の強さに関しては別記事にまとめてみたので、よかったら覗いてみてくださいね。

タイトルとURLをコピーしました