鬼殺隊には十干を基にした階級があります。これは単なるランク付けではないようです。
(この記事は、鬼滅の刃 ファンブック第一弾、ファンブック第二弾、第17巻、第12巻、第13巻、第15巻、第20巻、第21巻のネタバレを含みます)
鬼殺隊には「階級」があります。
ファンブック(第一弾 17頁)によると、階級は「すべての隊士」に与えられるもので、「序列が決まっており、入隊時は癸から始まり、功績によって昇格していく」とあります。
書き出してみると、こんな感じ。癸→甲の順で高い階級とされます。
乙(きのと) KINO-TO
丙(ひのえ) HINO-E
丁(ひのと) HINO-TO
戊(つちのえ) TSUCHINO-E
己(つちのと) TSUCHINO-TO
庚(かのえ) KANO-E
辛(かのと) KANO-TO
壬(みずのえ) MIZUNO-E
癸(みずのと) MIZUNO-TO
ただ、この階級は「十干が使われている」というところまでは触れているサイトが多いのですが、何を意味するのかははっきりしないようなので、どういう意味があるのか調べてみました。
「十干」は、音読み、訓読みで使い方が変わる
昔は学校の成績でランク付けする際に十干を使うことがありましたが、そのときは音読みで使うことが多かったようです。「こう、おつ、へい、てい…」といった読み方ですね。
鬼殺隊のように、「みずのえ、みずのと…」といった読み方は訓読みで、十二支と併用して暦などで使うことが多いようです。甲子(きのえね)、乙丑(きのとのうし)、丙寅(ひのえとら)、丁卯(ひのとのう)… といった感じ。
十干は10種類、干支は12種類なので、組み合わせは少しずつずれていって、60で最初の組み合わせに戻ってきます。数え60歳で還暦のお祝いをするのは、このためです。順位付けではなく周期を表すわけですね。
周期を表す訓読みの十干
そもそも「十干」は中国で生まれた考え方で、王を出すことが許された十氏族を表したとされています。決まった日に決まった氏族の祖先を祀っていたのが十干の始まりなのだとか。
現在のように陰陽五行説と深い関わりを持つようになるのは、漢の時代になってから。陰陽は「兄」、「弟」で表します。
陰 … 「弟」(読み:と)
さらに世界を構成する「木火土金水」(もっかどごんすい)の五行が割り当てられて、「きのえ」「きのと」「みずのえ」「みずのと」…と並びます。
一覧にすると、こんな感じ。占いの四柱推命で使われる「窮通宝鑑」(きゅうつうほうかん)では、十干にはそれぞれ特徴のある意味と性質が割り当てられています。
甲(意味:木の兄)
山や大地にそびえ立つ大木と見る。
人間では、多くの人を統率して事を推し進めるリーダー的な役割の人を表す。思慮深く質実剛健で、多くの人の信頼を勝ち得る。
乙(意味:木の弟)
田園に咲くやさしい草花、または蔓草と見る。
人間では、慎み深く遠慮がちに見え繊細だが、内面はとても辛抱強く、物事に執着強く、保守的な人を表す。
丙(意味:火の兄)
壮烈な太陽の火と見る。
人間では、陽気で情熱的、快活で華やかな人を意味する。反面、持久力に欠け、表面的な成功に終わりがちな面もあるとされる。
丁(意味:火の弟)
燈火や薪炭のように、人が使う人工の火と見る。
人間では、外面は柔和で物静かでも、内には鋭敏な知性を秘め、思慮に優れた人を表す。
戊(意味:土の兄)
山や大地や堤防の土と見る。
人間では、社交性に富みどっしりとした貫禄のある人を表す。その反面、外見を飾ったり、自信過剰になりがちとされる。
己(意味:土の弟)
田園や畑の湿った土と見る。
人間では、細心で規律正しく経済観念に富んでいるが、やや度量が小さく、猜疑心の強さがあるとされる。
庚(意味:金の兄)
荒々しい剛金。刃物や刀剣、斧、鉱物などと見る。
人間では、世渡り上手で小才の利く人を表す。手腕があるが、やや物質万能主義になりがちとされる。
辛(意味:金の弟)
珠玉、宝石、砂金など、加工された優しい金属と見る。
人間では、強情で物事にこだわり、我が強いが、万難を廃して物事を成し遂げる人を表す。批判力が旺盛とされる。
壬(意味:水の兄)
大河に悠々と流れる水や湖水と見る。
人間では、黄河の水のように清濁併せ呑む度量のある人を指すが、反面依頼心が強く、成り行き任せのようなところがあるとされる。
癸(意味:水の弟)
雨や雪、小川の水と見る。
人間では、正直で潔癖、勤勉で研究心が旺盛、自力で道を切り開いていくような人を表す。
どうして階級が生まれたのか?
鋼鐵塚さんによると、「『滅』の一文字だけを刻んだ刀が作刀された後、階級制度が始まり、柱だけが悪鬼滅殺の文字を刻むようになった」とのこと。(第15巻 129話)
「滅」の文字を刻んだ刀は、日の呼吸を使う緑壱のために作られた刀でした。
呼吸の取得は、人に合わせて多くの派生が生まれている
それまで鬼狩りには「呼吸が使える者はいなかった」(第21巻 186話)ので、呼吸を使える緑壱が他の人にも教えるわけですが、「誰一人として緑壱と同じようにはできない」ため、「緑壱は、それぞれの者が得意であること、できることに合わせて呼吸法を変えて指導していた」(第20巻 178話)といいます。
こうして様々な呼吸が派生したわけですが、たくさんの呼吸が生まれたのと、階級制度が採用されたのは同時期と考えることができそうです。
呼吸が増えると、なぜ階級が必要になるのか? その参考になりそうなのが、仏様にありました。実は仏様も様々な種類があって、分類があるのです。
仏様も人の思いや願いに合わせて多数の姿がある
仏教の創始者は、お釈迦様です。なので、お釈迦様の像を造って拝めば事は足りるはずですよね。
でも、人の願いや思いは様々です。病気平癒、現世安穏、極楽往生、鎮護国家… こうしたものを具現化するために、様々な仏様が生み出されました。
同じお釈迦様でも、出家をする前、出家をした時、さらに、悟りを開く前、悟りを開いた後と、いろいろな姿で表されるようになります。
この悟りを表すだけでも、低い悟りから高い悟りまで、全部でなんと52も位があるんですから半端ありません。
「瓔珞経」(ようらくきょう)に説かれる菩薩修行の段階で、五十二位に分けられています。
八宗の祖師とされる龍樹菩薩 … 41段
禅宗を開いた達磨大師 … 30段
天台宗を開いた天台大師 … 10段
さらに過去仏といって、過去、現在、未来、それぞれの時空で衆生を救済するとされる仏様が生まれています。
インド古来の神々が取り入れられたり、密教の尊像も加わると、それはものすごい数になるわけです。
そこで、「如来」、「菩薩」、「明王」、「天部」、「その他」と役割によって大きく分類されるようになったのでした。
鬼殺隊に階級が取り入れられたのも、もしかすると呼吸の種類が人に合わせて発達したことで、数が多くなりすぎたのかもしれませんね(笑)
十干が表すもの
改めて十干の意味を一覧で見ると、世界を構成する5つの要素「木」「火」「土」「金」「水」がそれぞれに影響を与え、支え合いながら、陰陽の盛衰を繰り返して循環していく様子がわかります。
十干は元々「要素」であって、「順位」ではない
「階級」は身分や地位などの上下の位を表すものですが、十干そのものに順位はありません。
そうした考えが盛り込まれているのか、ファンブックにも「功績によって昇格していく」と紹介されています。(ファンブック第一弾 17頁)
「功績」は、「人から称賛されるような、すぐれた働きや成果のこと」。このことから、十干を使った階級は、最初は仏様のように「分類」を目的にしていたのかもしれませんね。
試しに主要人物の最終決戦前の階級を並べてみると、それぞれこんな感じになりました。「窮通宝鑑」の解説と合わせてみると、それぞれの性質が意外と当てはまるみたいですよ。
竈門炭治郎
我妻善逸
嘴平伊之助
不死川玄弥
栗花落カナヲ
玄弥が「丁」なのはちょっと意外ですが、ファンブック第二弾 72頁では、「他者と触れ合っていったことで柔らかな雰囲気を取り戻す」と紹介されているので、「柱になるのは俺だ!!!」(第13巻 113話)と焦っていなければ、もしかすると本来は柔和で物静かな性質の人だったのかもしれませんね。
「順位」としてかなり意識されていることが描かれている
とはいえ、後藤さんも「まぁ階級、上だから言えんけどな」(第12巻 100話)と言ったり、村田さんも「おめえ!!階級何なんだよ、俺より下だったら許さねぇからな」(第17巻 146話)と怒鳴ったりしています。
隊士や隠の人達の間では、階級の上下は意外と意識されている様子。まあ、当初の目的がいつの間にか形式に引きずられて、意味が変わってしまうことって、よくあることですよね…。
こうした階級は少年漫画らしさを出すための演出の一つだったのかもしれませんが、ただのランク付けで終わらせず、こうした深みを見せるところがワニ先生らしいですよね。この辺も、意味を踏まえた計算がされていそうです。
十干の「60で一巡り」という特徴に関しては、「鬼滅の刃」では物語のさらに深い部分を構成する要素にもなっているようです。
物語終盤に関するネタバレも含む考察になってしまいますが、よかったらこちらも覗いてみてくださいね。