伝説では、太陽には3本足の烏がすんでいたり、熊野を進軍する神武天皇を八咫烏が導いたりします。
But the word ‘鴉’ is used for Kasugai Crows in Demon Slayer.It means an ordinary crow.
でも、鬼滅の刃では、鎹鴉に「鴉」という文字を使います。これは普通のカラスを意味しています。
In Japan, crows are said to be messengers of Yama-no-Kami.
日本ではカラスは山神の使いと言われています。
(この記事は、鬼滅の刃 第2巻、第9巻、第12巻、第15巻、ファンブック第一弾のネタバレを含みます)
最終選別を突破すると、連絡用として一人に一羽の鎹鴉がつきます(第2巻 8話)
鬼殺隊当主からの指令などが鎹鴉を介して届けられる(ファンブック第一弾 17頁)ということで、情報伝達の要とのこと。
カラスは頭がいいというのはよく聞く話。京都の烏寺(熊谷山専定寺)は、梢にとまった2羽の烏が「今日は蓮生坊(れんしょうぼう)の極楽往生の日である。我々もお見送りしようではないか」と話しているのを専定法師(せんじょうほうし)が耳にしたことがきっかけで創建されたとされているし、連絡役くらい難なくこなせそうです。
でもこのカラス、調べてみるとちょっと不思議な存在でした。
熊谷直実(くまがいなおざね)の法名。源義経に従って一の谷の戦いに参陣し、笛の名手で有名だった平敦盛を討った武将です。
後年は法然上人に弟子入りして出家するのですが、「日本一の剛の者」と讃えられた人だけあって、出家した後も様々な逸話を残しています。
鎹鴉に必要な条件
お館様の鎹鴉が珠世さんの所へ現れたとき、鴉はこんなことを言います。
吾輩は訓練を受けているとはいえ、ただの鴉。そもそもそこまで警戒されない(第15巻 131話)
そして、無惨様も堕姫にこんなことを言ってるんですよね。
柱ほど実力の有る者以外、人間など視ただけではほとんど違いがわからない(第9巻 74話)
木を隠すなら森の中。
人間に対してこの程度の認識ですから、カラスが人の言葉をしゃべったり、人の肩にのったりしていても、鬼にとっては自然のカラスと区別できないほどの小さな違いなのかもしれません。
人のそばにいる普通の鳥の中にいれば、鎹鴉は危険を小さく抑えながら連絡役をこなせるわけですね。
というわけで、鎹鴉になる条件は、人のそばにいてもおかしくない「普通の鳥」が理想となります。この点は、カラスもスズメも合格ですね。
「烏」と「鴉」には違いがある
カラスを表す漢字は2種類ありますが、鎹鴉は必ず「鴉」の字が使われます。例えば、こんな感じ。
どうでもいいんだよ、鴉なんて(第2巻 8話)
意地の悪い雌鴉なんて相手にしなくていいですよ(第12巻 103話)
では、「烏」と「鴉」はどこが違うのかというと、「角川 漢和中辞典」にはこんな説明がありました。
[解字]象形。とりの象形字(→鳥)鳥から線一本を略した形。からすはからだが黒いので、目がどこにあるかわからないことを表すという。したがって鳥の部にあるべき字である。烏の音を借りて、感嘆詞(嗚と同じ)に用い、また疑問詞にも用いる。
[字義]1. からす。
2. くろい
(略)
6. 日。太陽。太陽の中に三本足のからすが住んでいるという伝説による。「烏兔」(うと)
[解字]形成。牙の転音が音を表す。鳥名。
[字義]1. からす。はしぶとがらす。みやまがらす。
2. 黒い色のたとえ。まっくろ。
(同義語)烏
「鴉」は「烏」と同義語ということで、意味は同じ「カラス」なんだけど、表現の仕方が「象形文字」か「形声文字」かの違いになるみたいですね。
象形文字は、目に見える形をもとに作られた漢字。形声文字は、発音を表す文字と意味を表す文字を組み合わせて作られた漢字です。
つまり、「烏」はカラスの形を表していて、「鴉」は「ガーガー」と鳴く鳥であることを音で表しているわけですね。
ただ、辞書の解説には変なところがあります。「鳥の部にあるべき字である」という部分。
そうなんです、「鴉」は普通に「鳥部」にあるのですが、「烏」が分類されているのは「火部」で、「火」、「灰」、「灯」といった文字と一緒に並んでいるんですね。
生き物としてのカラスは鳥なのに、確かにこれは変です。
「烏」が火部に分類されているわけ
「烏」の文字が火部に分類されている理由。これは、「『山の神』易・五行と日本の原始蛇信仰」(吉野裕子著)が参考になりました。
山の神祭りとカラスの関係を解説する章に、参考になる文献として「節文解字注」(段玉裁)と「五経通議」が紹介されています。
「説文解字注」は、角川 漢和中辞典とほぼ同じ内容が掲載されていました。
烏はその色が黒いので、遠くからみるときは眼を見分けることが出来ない。そこで鳥の一画を省いて、その意を表す。象形文字の所以である。
「五経通議」では、易の「火の卦」と「烏」が関連しているとして、こんな解説がありました。(卦の形はパソコンの文字で表示できないので、★でマークしています。下図の絵を参考にしてください)
「易の『乾』★(三)は、まず★(一)からはじまり、★(三)で成卦する。『乾』は陽卦である。太陽は一日一度行き、陽の乾卦は★(三)で成る。すなわち太陽の中に三本足のカラスがいる所以である。日、即ち太陽は火精、つまり火の集積である。その『火』の卦は★(■)、つまり外側が熱く、内側は暗い。これは烏の黒色を象ったのである」
そして上の解説の後、著者の私見がこんなふうに続きます。
たしかに『易』の火(離)卦★(■)は、外側が陽で明・熱、内側は陰で暗・冷である。しかしこの内側の暗さ、すなわち黒が烏の黒色を象る、という説明は意味不明で、もう一つ迫力がない。
それよりも、「烏」字にみられる点睛を欠く空洞と、火卦にみられる真中の空洞「★(■)」が重ね合わされて、つまり(烏、★(■))ということで、・烏、即、火
・火、即、太陽となり、カラスが太陽に棲むものとされたのではなかろうか。
象形から「烏=火=太陽」と考えることができて、太陽には三本足のカラスがすんでいるという伝説につながっているというわけですね。
このように、カラスが「太陽につながる火の要素をもつもの」と考えられていたのなら、漢和中辞典の火部に「烏」が分類されているのも不思議ではないわけです。
こうしてみると、「鬼滅の刃」も火之迦具土(ホノカグツチ)に関わるお話なんだから、「『烏』のほうがぴったりじゃない! 」という感じなのですが、使われている漢字は全力で、「違うんです!『ガーガー』と鳴く普通のカラスのほうなんです!!」と主張してるわけです…。
やっぱり鎹鴉は、カラスの安全のためにも、神話にまつわる「烏」より、「普通の鳥」の「鴉」のほうがいいということでしょうか(汗)
カラスは「山の神の使い」という話もある
ただ、普通のカラスにも、「山の神の使い」という姿がありました。
「『山の神』易・五行と日本の原始蛇信仰」の「第三章 山の神祭りとその周辺」では、山の神のお祭りに、カラスを使った神事が紹介されています。
ブログ「Cosmos Factory」さんによると、秋田県ではハシブトガラスは「ヤマガラス」、ハシボソガラスは「サトガラス」と呼ばれていたそうで、柚木修さんという方は「ハシボソガラスは秋の収穫から山に入り、春になると里に下りてくる山の神の使いだといわれていた」と言っているのだそう。
参考 カラスのこと、山の神のこと – Cosmos Factory
月に浮か痣のような模様や、ウサギの姿が重なる禰豆子、そしてイノシシの頭を被った伊之助など、「鬼滅の刃」は山の神に関わるイメージがけっこう盛り込まれているので、鎹鴉も山の神に関わっていてもおかしくなさそうです。
季節によって山から里へ降りてきて、里から山へ帰っていく… というサイクルは、同じく山の神や田の神の使いとされていたキツネと、そっくりですね。
だとすると、鎹鴉はやはり人里近くへやってくるハシボソガラスということになりそうです。
ハシブトガラスはムクドリの若鳥や雀の雛も食べてしまうそうなので、一緒にいると善逸のスズメも食べられてしまいそう。カラスの性質から見てもハシボソガラスがぴったりです。
ただ、山の神の使いとされるカラスが、どうして鬼殺隊に協力してくれているんだろう? ということを考えると…
もしかすると鬼殺隊の頂点に立つお館様、産屋敷家が、どこかで山の神と関わりがあるのかもしれませんね。この辺は、後ほど別の記事で考察していこうと思います。
当ブログでは、この他にも山の神に絡めて鬼滅の刃のことを考察している記事があります。よかったらこちらも覗いてみてくださいね。