禰豆子の口枷に使う竹は、歌舞伎にヒントあり?

竹

Nezuko Kamado is wearing a bamboo Mouth Shackle that was given by Giyu Tomioka. In Kabuki, bamboo is used to push vengeful ghosts and evil spirits back to the stage from the flower path.
竈門禰豆子は冨岡義勇から与えられた竹の口枷をつけています。歌舞伎では、竹を使って怨霊や悪鬼を花道から舞台に押し戻します。

(この記事は、第7巻、第10巻、第16巻のネタバレを含みます)

鬼滅の刃の禰豆子は、竹でできた口枷をつけています。鬼に襲われて鬼と化した禰豆子のために、炭治郎たちを助けた水柱の義勇さんによって、この口枷が取り付けられました。

でも、どうして竹なんでしょう? しなやかで折れにくいから?

十日えびすの縁起物をつける福笹や、天神さんの献湯神事(けんとうしんじ)で使われる笹束など、神社では笹をよく見かけますが、笹や竹で鬼を退治するような話は、あまり聞いたことがありません。

実際、炭治郎たちが鱗滝さんのいる狭霧山へ向かう途中では、禰豆子は竹で補強したカゴの中に、何の障害もなく入ってましたもんね。竹が鬼避けになるのなら、これはちょっと不思議な展開です。

疑問を解決してくれそうな、何か関係のある話ってないのかしら?

と思っていたところ、歌舞伎に出てくる大館左馬五郎(おおだてさまごろう)という興味深い役柄があるのをみつけました。

歌舞伎十八番の「押戻」は、悪霊や悪鬼を押し戻す

大館左馬五郎

それが、この人なんですけどね。

荒事(あらごと)と呼ばれる赤い隈取をして蓑を着け、腰には三本太刀(二本太刀の伊之助より多い!)、竹笠と太い青竹を持って、「押戻」(おしもどし)という場面に登場します。

押戻というのは歌舞伎十八番の一つで、独立した脚本がある演目ではなく、役や演出そのもののことをいいます。なので、お芝居によっては大館左馬五郎が竹抜五郎(たけぬきごろう)になったりします。

「鳴神」(なるかみ)や「双面」(ふたおもて)、「道成寺」といった怨霊の現れる演目で、舞台から花道へ向かおうとする怨霊や悪鬼の前に立ちはだかり、舞台奥へ押し戻して退散させるのが役目です。

怨みをのんで死んでいった人の霊を、荒人神(あらひとがみ)とか、御霊(ごりょう)といって祀る風習がありますが、大館左馬五郎の「五郎」は、この「御霊」の音に通じているそうですよ。

姿も鬼に通じる出で立ちになっていて、飛鳥時代に考えられていた鬼は、左馬五郎の蓑や笠のように、姿を隠す物を身に着けて現れるとされていたみたいです。ちょうど秋田の「なまはげ」みたいな感じでしょうか。

でも、こんなところに使われる青竹なら、禰豆子がもしも人を襲いそうになっても押し戻してくれそうですね(笑)

竹は古来、神聖なものでした

雪景色の竹林

左馬五郎が手に持つ青竹は、空へ向かってまっすぐ伸びる様子から、自然の神気が舞い降りてくるとされる植物です。

記紀(古事記、日本書紀)にも、天の岩戸に姿を隠した天照大神(アマテラスオオミカミ)を誘い出す踊りを舞う際に、天宇受売命(アメノウズメノミコト)は天香久山(アマノカグヤマ)の笹の葉を手にしていました。

地鎮祭では「忌竹」(いみだけ)と呼ばれる青竹を、祭場の四隅に立てて注連縄(しめなわ)を張り、そこが聖域であることを示しています。

そういえば、これからの季節は門松にも使われますよね。

古くは、松、杉、椎、榊と常緑樹を中心にしたけっこうシンプルなものだったみたいですが、「松は千歳を契り、竹は万代を契る」とたとえられる組み合わせは、家が永遠に栄え続くようにという願いが込められています。

このように、竹には直接、鬼を退治するような話はないけれど、呪術的な力や浄める力があると古くから考えられていたし、歌舞伎では竹を使って怨霊や悪鬼を押し戻す演出もあるほどなので、禰豆子の鬼の力を抑え込むのには最適と言えそうです。

それにしても、原作やアニメには周囲に竹林のような描写は見当たらなかったんだけど、近所に竹林があったのでしょうか。炭治郎の家は炭焼きなので、竹炭の材料として、ほど近い場所に竹林があってもおかしくはないのですが。

遠くはないにしても、あの雪が積もる山の中、義勇さんは禰豆子のために竹を探しに行ったわけですよね。

禰豆子の顔に合うサイズを吟味しながら、雪の中を探すのは結構大変だったろうなと思うと、ちょっと可愛らしいですね(笑)

【追記】
なんと、義勇さんのお宅は竹林に囲まれているようです(第16巻 136話)。まさかこれ、マイ竹筒? いえいえ、義勇さんに重なるイメージのヒントかもしれません。

もしかすると、山の神につながる象徴かも

この他に興味深いのは、「ウサギ」、「眠り」など、禰豆子は山の神に関連する表現が多く見られるキャラクターだというところです。

例えば、ウサギは以下の場面で象徴的に現れます。

【禰豆子とウサギが重なる場面】
・無限列車では、伊之助の夢の中でうさぎの姿になって登場(第7巻 55話)
・炭治郎のウサギの子守唄で急激な鬼化の進行を止める(第10巻 85話)

民俗学では、ウサギは月の神、氏神、祖霊、農神、族霊と関連してとらえられる地域があることから、ウサギを山の神と同一と考える人もいるんですよね。

ウサギと山の神の関連は、こちらの記事に詳しくまとめているので、覗いてみてくださいね。

山の神は、最近ではあまり耳にしなくなりましたが、山仕事や農業にご利益がある神様のこと。かつては日本の各地で信仰されていました。

武士階級も、文化的に深く関わっていたようです。

その神事には、竹を使うことが多いみたいなんですよね。いくつかネットでも確認できたのですが、探すともっとあるかもしれません。

三重県亀山市
山の神の前に竹で小屋を作って、夜通しかがり火の晩をする
参考 山の神信仰 亀山市史 民俗編 | 亀山市歴史博物館
滋賀県 県内一円
神饌を備える際に竹を編んだ膳を用いる
参考 近江の山の神行事 | 滋賀県ホームページ
宮崎県椎葉村
嶽之枝尾神楽(たけのえだおじんじゃ)には、「宿借り」という演目があり、山の神の化身「山人」(まれびと)が、竹の杖を持って現れ、宿を乞う。
参考 みやざきの神楽(6)椎葉神楽 | みやざき風土記(宮崎みんなのポータルサイト miten)

竹が直接山の神を象徴するのかはわかりませんが、口枷に竹が使われているのは、もしかすると、禰豆子と山の神をつなぐ象徴になっているのかもしれません。

禰豆子の髪の色、瞳の色について、富士山から考察した記事もあるので、よかったらこちらも覗いてみてくださいね。

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